小説 | ナノ






空条君のおすすめ、という店はこじんまりしていたがお酒も料理もとても美味しかった。ついつい飲むペースも早くなる。いい感じに酔いが回ってきたところで、あ、と気づく。

「空条君ってこの辺りに住んでるんだよね」
「ああ」
「じゃあ24時間空いてるファミレスとかカラオケとか知らない?もしくはビジホとか」
「終電まではまだ時間があるが」
「あー、いや。今家帰れないんだわ」

不思議そうな顔をする空条君に笑いがこみあげてくる。本当に彼は何も知らないらしい。何か適当な言い訳をしても良かったけれど…酒の魔力ってすごい。軽くなった口からはすらすらと今回の顛末が流れ出ていた。

「と、言うわけで帰りたくないんだよねー」
「今まではどうしてたんだ?」
「んー?友達の家に泊めて貰ってたんだけど、彼氏来るって言うからさーお邪魔しちゃいけないでしょー」
「そうか…とはいえ女が一人でそんな所に泊まるのは危険だろう」

渋い顔をする空条君に、いい親に育てられたんだろうな、と思う。話してる最中も大変だったんだろうな、とかお前にも悪い所が有ったんじゃないか、とか聞きたくもない合いの手を打つこともなかったし。なんだか少しすっきりしたな、と一人思っていると、空条君が顔を上げた。

「仕方ねえな、家泊まるか」
「え?」
「女一人で外に居させるわけにもいかねえしな。付き合ってもいいんだが…テスト明けで流石に横になって寝てえってのが本音だ」
「あー、そりゃそうですよねー。って迷惑でしょ、いいよいいよ」
「気にすんな、特にもてなせるもんもねえしな」
「んー…」
「それとも男の所に泊まるのは気が引けるか?」
「あー、まあ…でも空条君なら選び放題でしょー、わざわざ私見たいなのひっかけなくても」
「まあな」
「うっわ、サラッと肯定したよ。…んじゃあ御好意に甘えさせてもらおうかな?狼にはならないでねー」
「ならねえよ」
「ですよねー!じゃ、もう一杯頼んじゃおうかなー」
「飲みすぎるなよ」
「すいませーんお姉さん!焼酎ロックでお願いします!」
「…やれやれだぜ」

呆れる空条君を尻目にごくごくと酒を流し込む。こんな楽しく飲んだの久々な気がするなあ。あの夜は友人の部屋で嫌って程飲んだけどあれはヤケ酒だったしなー。
そんなことを考えながら、飲み続けてお店を出る時にはもう千鳥足になっていた。
空条君に支えて貰えながらふらふらと歩く。

「だから飲みすぎるなって言っただろうが」
「ふへへ…本当ご迷惑おかけしますー」
「本当にな」

空条君が深々とため息をついて居る内にどうやら彼の住むマンションに着いたようだ。うわあ、お坊ちゃんだって話は聞いたことあったけどマジだったわ。
私の住んでいたアパートと比べ物にならない位部屋に居れてもらい、ソファーに座らせてもらう。綺麗に片付いた部屋にもしかして彼女とかいるんじゃないかっていう可能性に気付く。

「空条君彼女はー?やだよ私間男ならぬ間女になるのー。あの子と同類じゃーん」
「居たら連れてくるわけねえだろ。ほら水飲め」
「んー、ありがとー空条君はいいお嫁さんになるねー」
「なる予定は一生ねえよ」
「そりゃそうだー」

酔っ払い特有の間延びした口調になってるなあ、なんてまだ少し残っている理性が考えてる。でもそれも口にする言葉を考慮するほどの力はなかった。

「あー、空条君の部屋でも男の子の匂いってするんだねー」
「なんだそりゃ」
「いや、よく分かんないんだけどさー…元彼の部屋も同じようなにおいがしたなあ、って…」

話してる内に自然と鼻声になって、視界が滲んだ。あ、これ泣くな、って思っている内にぼろぼろと涙がこぼれる。

「ほんとさあ、好きだったんだよー、彼氏も幼馴染もさあ」
「ああ」
「なのにさあ、一生懸命働いて帰ったらベッドの上であんあんやってんだよー、で事に於いて違うのってさー何が違うんだって話ですよ。人が必死で買ったベッドの上でさあ…ずっぽしいってんじゃないのってー」

だらだらと話している内にあの時の二人の顔が思い浮かんで唇を噛みしめた。

「しかもさー別れ話の時さあ、私より可愛かったとか言いやがってさー。甘えられんの嫌いとか面倒くさいとかさんざん人に言ったくせになにそれって感じだよ。だったらさっさと別れてから付き合えばいいじゃん。浮気してさバレたらこっち責めてさ、可愛くなくて悪かったね、てかせめて人の部屋ではやってくれんなって話ですよ」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる感触がする。一旦言葉を止めてその重さと温かさを感じると、余計悲しくなった。最後に彼氏にこんな風にされたのって何時だったかなー。最近は会ってもやるだけだったなー、てかそれすら無くなってた気もするよなー。私より可愛い子抱いてたらそうなるってか。

「あー、私って可愛くないのか。可愛くないのか、なあ空条!」
「落ち着け」
「落ち着くとかそうじゃなくて聞いてるんだよー。私って可愛くないかなー」

ぐらぐらと頭を揺さぶる私にまたため息をついて空条君は頭を掴んで止める。うえ、ちょっと気持ち悪くなった。

「可愛くないとは思わねえよ」
「嘘だー、おためごかしだー」
「嘘じゃねえよ…どうすりゃ満足なんだお前は」

満足?どうしたら満足?

「…じゃあさあ、空条君は私抱ける?」

固まった空条君を見上げれば、切れ長の形の良い目を大きく見開いていた。

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