小説 | ナノ






※直接的な下ネタあり




バイトから帰ってきたら、私たち親友だよね、なんて馬鹿みたいなことを言っていた幼馴染と、卒業したら結婚しよう、なんて甘い夢を語っていた彼氏が素っ裸で人のベッドの上で絡み合ってました、まる。

「いや、あの…これは違うの!」
「落ち着け!落ち着いてくれ!」

きゃんきゃんと喧しく喚くベッド上の二人に冷たい目を向ける。違うって何が違うんだ。落ち着けってお前が落ち着け。二人の発言に心の中で突っ込みながら、にっこり笑顔を浮かべてやる。

「地獄に落ちろ」

それだけ言って私は自分の部屋から颯爽と出て行った。


「あー、本当やってられない」
「まあやりきれんわなー」

大学のカフェで友人と向かい合ってコーヒーを呷る。何がやりきれないって、あの二人が使ってくれたベッドは眠りが浅い私が少ないバイト代をやりくりして何とか買った高級寝具だったり(勿論あの男はそれを知っていた)、そんな仲も良くない女が訳知り顔で私たち三人の仲を取り持とうとしたりしたことだ。

「彼氏の愚痴話してたからって寝取られてたまるかってーの」
「あん時のあんた怖かったわ」
「あー、何言ったかも覚えてないわ」
「えー、『じゃああんたの彼氏の愚痴聞いたことあるから私が彼氏寝取ってもいいんだよね?あんたにも非が有るんだもんね?まあ例え私に非が有って寝取られたにしても、んな軽々しく他の女に突っ込むちんこなんてこっちから願い下げだわ、余計な口出しすんじゃねえ』って一息で言ってたよ」
「…あんたもよくそんな長いの覚えてたね」
「いやあ、超満面の笑みで言い切ったから感動しちゃって」
「そりゃあどうも…」
「にしてもあの子も凄いよねえ、幼馴染で同じ学部のあんたの彼氏寝取るって」
「学校に行きにくいの、どうにかしてって泣き付かれたわ」
「…本当凄いわあの子」

本当にねえ。生まれた時からの付き合いだったけどあんな子だったなんて私も初めて知ったよ。人間の二面性って怖いね。

「で、さあ。今日の事なんだけど…」
「ああ、うん。分かってるよ。てかこんな何日も世話になってごめん」
「いや、そんなことあった部屋に帰りたくないのも分かるし。それはいいんだけど。部屋とかどうすることになったの」
「二人の親が全額負担で新しい部屋借りてくれることになったわ。ベッドも新調してくれるって。で、綺麗に清算しましょう、と」
「そうなんだ。でもまだかかるん?」
「時期が時期だから中々見つかんなくって。一応来週には引っ越せる筈なんだけど」
「そっか。でもベッド新調って…本当良かったね」
「うん。流石に高かったとはいえあの二人のでぐちょぐちょになったのは使いたくないわ」
「そりゃそうだ。あー…私そろそろ行くわ。本当ごめんね。月曜からはまた大丈夫だから」
「ん、ありがと。楽しんでねー」

空いたコップを持って席を立った友人に手を振って見送る。あー、私も何日か前まではあんな風にデートだなんだで浮かれてたんだよなあ、なんて思って大きくため息を吐いた。
さて、それにしても週末は本当にどうしようか。今日までは友人の厚意に甘えて泊まらせてもらっていたが、彼氏が来るとなったら居させてもらうわけにもいかない。誰か他の友人…と思ったがそんな仲のいい友達はほかに居ない。頼めば泊めてくれる人もいるかもしれないが、今は出来る限り他人とは関わり合いたくなかった。
とりあえず混んで来たし一旦出て図書館にでも行こう。そう思ってカフェを出て図書館に向かうと、見慣れた背の高い後姿を見つけた。

「空条君じゃん」
「苗字か」

同じゼミの彼は歩を止めてこちらを振り向いた。

「図書館?」
「ああ、お前もか?」
「うん。レポートがラス1」
「俺もだ。水質学か?」
「そうそう。空条君も?」
「ああ」
「んじゃ良ければ一緒にどう?文献とか被るだろうし」
「そうだな」

頷いて歩き出す空条君は、綺麗な顔をしてるわりにとっつきにくいと有名だ。私もずっとそう思っていたけど、ゼミで話す内に無愛想に見えるだけで本当はそんなに冷たい人ではないと理解していた。今もこうして歩幅を合わせてくれてたりするしね。


図書館から出て大きく一つ背伸びをする。

「あー、終わったー!私これから提出してきちゃうけど空条君どうする?」
「俺も出しちまうかな、また来るのも面倒くせえし」
「ん、…あ。良ければこの後飲み行かない?」
「…そうだな、時間もあるしいいぜ」
「よっしゃ、連れゲットだぜー」

人と関わり合いたくないと言ったな、あれは嘘だ。っていうのは嘘だが。他の知り合いは同じ学部で起こった修羅場だけに皆知っていて興味津々だったが、空条君は全く聞いてこなかった。この人の性格的にただ興味がないだけなのかもしれないが…その無関心が心地よかったのは確かで。一人で無為に過ごすよりは彼と居たかった。…あの子が空条君に憧れていたのを知っていて、わざと誘ってみたって言うのもあるけど。
自分で思っているより結構荒んでるんだな、と気づいたけれどそれにはそっと蓋をしておいた。どうせなら綺麗な顔を純粋に堪能しながら飲みたいじゃないか。

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