小説 | ナノ






風が冷たくなってきた。日が落ちるのも以前と比べて随分と速くなっている。もうすぐ、秋が来るのだと体感した。

「紅葉の季節ですね」
「そうですねー」
「出かけたいとは思いませんかー」
「思わないですねー」
「そう、ですか!」
「いて!」

目の前でテレビゲームをしている仗助のつれない返事に、思わず足が出た。広い背中を足蹴にすれば、操作をミスったのか残り少なかったHPゲージが一気に無くなった。

「あーっ!」
「ざまあ」
「お前!今すげえいい所だったんだぞ!」
「へー。じゃあもう一回そこまでやる楽しみをあげた私に感謝しなさいよ」
「出来るか!」

本当にいい所だったのか半泣きになっている仗助にちょっと罪悪感が湧いたが、やってしまったものは仕方ないと開き直る。

「じゃあ気晴らしにどっか遊び行こうよ」
「行かねえよ!」
「えー」
「えーじゃねえっての!だいたいそう言うのは彼氏に言え彼氏に」
「…そんなの居ないし」
「知ってる」
「やばい、殴りたい」
「そういうの殴る前に言ってくんねえ!?」

クリーンヒットした肩を押さえつつ声を荒げる仗助。そんな彼の高い鼻をめがけて抱いていたクッションを投げつける。

「うお!…何なんだよテメーは!さっきからよお!」
「仗助が悪いんじゃん!」
「俺の何が悪いんだっつーの!」

お互い怒鳴りあって、部屋に沈黙がおりる。…あ、やばいなんか悲しくなってきた。

「…いーよ、もう」
「どこ行くんだよ」
「露伴先生のところ。この間紅葉スケッチしたいって言ってたからついでに連れてってもらう」
「はあ?」
「お土産くらいは買ってきてあげるよ。気が向いたら」

立ち上がろうと床についた手を、仗助が掴んだ。

「なに」
「行くなよ」
「…なんで」
「なんか嫌なんだよ、お前が露伴の所行くの」
「…訳分かんない。じゃあ億泰と遊び行くから」
「それもダメだ」
「じゃあなんならいいのよ」
「なんならいいって言うかよお…」

歯切れの悪い仗助はそのまま、あーとかうーとか唸りつつガシガシと頭を掻いた。このままじゃご自慢のリーゼントが崩れてしまいそうだ。

「…お前がさあ、俺以外の奴の所行くのはなんか嫌っていうかよお…」

照れた様に目を逸らしながら口を尖らせる仗助にちょっとキュンとしてしまった。

「なに?やきもち?」
「うっせえ」
「じゃあ二人で買い物でも行こうよ」
「…仕方ねえなあ、付き合ってやるよ」

そう言いながら、ちょっと緩んだ頬が妙に可愛かった。


「って言うことがあってね」
「何で私があなた達の惚気を聞かなきゃいけないのかしら」
「やだなー由花子。惚気って…私たち付き合ってないし。仗助の好みはこう…ボンキュッボン、みたいなお姉さんだよ?」
「…今日ばかりは東方仗助に同情するわ」
「え?なんかあったの?」
「なんでもないわ。で、何買ったの?」
「仗助がねー、ネックレス買ってくれたんだー」
「そう…」


想いが伝わらない男
何時まで経っても意識して貰えないなんて!



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