小説 | ナノ






白に赤。目が覚めるようなその組み合わせが、目に焼き付いて仕方がない。

「…結婚式にその仏頂面はどうなんだ」
「承太郎だって、同じようなもんじゃない」
「オレはいつもこうだ」
「そう言われりゃそうね」

手に持っていたシャンパンを一気に飲み干す。ぱちぱちとした刺激にすら苛立たしさを覚えた。

「…悪酔いするぞ」
「酔っ払いの愚行だったら皆笑って許してくれるかしら」
「そんなわけないだろう」

やれやれだぜ…とお馴染みの口癖を吐くこの大男も落ち着いたものだと思う。昔だったら冷たい目で一瞥するか、馬鹿か、くらいは言ったものだと思うが。

「…十年よ」
「ああ」
「十年間ずっと好きだったの」
「知ってる」
「何がいけなかったのかしら」
「…言わなかったこと、だろ」
「…そうね」

友人に囲まれた本日の主役を眺める。赤毛に白いタキシードを着た、優男と、それに寄り添う可愛らしい花嫁。誰もが顔を綻ばせる様な、お似合いのカップルだ。
いつも不思議に思っていた前髪が、ゆらゆらと揺れる。赤い髪が、タキシードに悔しいくらい映えて、目に焼き付く。
ジッと見ていると目が合ってしまった。逸らす前に花京院は、私たちの所へ歩を進めてくる。

「ふう…疲れてきたよ」
「今日の主役が何言ってんのよ」
「主役は彼女だよ。昔から結婚式は花嫁のものって決まってるだろう?」
「ならメインの添え物として頑張りなさいよ。ねえ?」
「そうだな」
「承太郎までそんなこと言うのかい…」

ため息をつく花京院に何時もの様に軽口を叩く。ああ、こんなこと言いたいわけじゃないんだけどなあ。
そのまま昔の話で盛り上がっていると、ウェイターがシャンパンを持ってきた。受け取って杯を持ち上げる。そのまま口を付けようとした時、可愛らしい声が花京院を呼んだ。

「今いくよ」

振り返ってそういう花京院の顔があまりにも、幸せそうで。ぐらりと視界が揺れる。ああ、飲みすぎたかな。

「じゃあ、ぼくは…」
「待って」

行こうとした花京院を引き留める。隣にいる承太郎の肩が揺れたが、気にする暇はなかった。景気づけのように、シャンパンを飲みほして。

「花京院」
「なんだい?」
「私ね、あんたのこと大好きよ」

言われた本人でもない承太郎は固まって。対照的に花京院は、柔らかく微笑んだ。

「ああ。ボクも、君が大好きだよ」

じゃあ、と衣装を翻して花嫁の下へ戻る花京院を見送る。傍から見たら分からないだろうが、酷く気まずそうな承太郎に笑いかけた。

「振られた」
「…ああ」
「っていうか振られる以前の問題だったね」

何も言えないのか、無言になる承太郎の肩を殴る。そして、そのまま顔を埋めさせてもらった。

「ボクも、だって」
「ああ」
「あのボクも、って友人として、だよね」

っていうか、それ以外有り得ない。だから彼はああして、照れくさそうに笑ったのだ。

「女として見られてすらなかったわけだ」

彼はほんの少しも、恋愛感情としての好きとは考えなかった。私の気持ちを、当然の様に友人としてしか受け取らない程度には。

「完敗、だなあ」

幸せそうな二人に、視界が滲む。何も言わない承太郎に甘えて、寄りかかったままにさせてもらった。ああ、やっぱり白に赤がよく映える。

「…幸せそうだね」
「ああ」
「なら、いいかなあ」

それは、承太郎にどう聞こえただろう。負け犬の遠吠えか、それとも。
ただ、今の私は酷く清々しかった。ああ、まったく!


憎々しい男
だけれど、やっぱり愛していたのだ



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