小説 | ナノ







※現パロ

どろり、どろりと滲むこの薄暗い感情を人は嫉妬と呼ぶ。

「シーザー」

聞きなれた声に振り返ると、今思い浮かべていた彼女がそこに居た。

「シーザー?」

何も言わない俺に不思議そうに首を傾げる。その白い首筋に俺のものだという印をつけたいと言ったら、初心な彼女はどんな反応をするだろうか。顔を赤くするのか、嫌がるのか。好奇心がくすぐられるが、そんなことはおくびにも出さない。

「ああ、どうした?」
「あのね、ジョセフが放課後遊びに行こうって」

はにかむその表情にまた、じわりと怒りにも感情が浮かび上がる。

「へえ、どこに?」
「ゲームセンター。この間ジョセフがハマってるゲームが新しくなったんだって」
「ふーん…。別にいいぜ」
「そう、じゃあジョセフにも伝えとくわね」
「ああ。…それとも本当は俺が居ない方がいい?」
「え、…なに言ってるのよいやね」

困ったように笑って視線を逸らされる。力を込めた掌に爪が食い込んだ。

「スージーQに怒られちゃうわよ、そんなの」
「怒られなかったらいいんだ?」
「そんなこと言ってないでしょう」

そういう意味だったと思うんだけどなあ。ムッとしたような表情をした彼女の手を取る。びくりと揺れた肩に目を細める。ああ、苛つく。

「じゃあ、それとも俺と二人で行く?」
「…そんなの本末転倒じゃない」

ジョセフが誘ってきたのに、と呟く彼女をこのまま抱きしめてしまいたい。腕に閉じ込めて、愛を囁いて。そうしたら、君は俺を見てくれるだろうか。

「なあ」
「おーい!」

間がいいのか悪いのか、ジョセフが扉から顔を出す。彼女が勢いよく振り返ったせいで、握っていた手が逃げた。その柔らかな感触を思い返しつつ手を握る。…今俺は、何を言おうとした?

「今日どうするのん!」
「シーザーも行くって」
「オッケー!スージーQもこれたら来るってよ」
「そっか、待ってるねって言っといてくれる」
「あいよー!」

チャイムに追い立てられるように走り去っていくジョセフを見つめる彼女の横顔が、どこか寂しげで。

「さ、私たちも中入ろう?」
「ああ」
「あ、そういえばさっき何か言いかけてなかった?」
「…ああ、今度でいいや」
「そう?」
「ああ」

首を傾げつつ先を歩く姿を見つめて。小さく首を振る。
この気持ちを告げるのは、まだ先だ。彼女の恋が終わるのは目に見えていて。その時に、告げなくては。

「逃がすつもりはないんだ」

逃げられない様に囲い込んで、手をまわして。君が確実に手に入るのを待っている、と言ったらどうするだろう。
じわじわと滲む黒いものに追い立てられる。だが、今はまだ。
手に入った時、この黒いものはなくなるのか、それとも。

「受け入れてくれよ、愛しのバンビ」

じゃなきゃ、どうなるか俺にもわからないぜ?笑う彼女の横顔に、そっと笑みを投げかけた。



歪んだ男
歪ませたのは、君


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