「あなたが、死んでいて良かった」
きょとんとした顔のポルナレフさんがこちらを見る。普段は冷静なその顔が少々あどけなく見えて微笑ましい気分になった。
「ポルナレフさん、私ね、あなたが好きなんです」
「…どうも、ありがとう」
にこり、と綺麗に笑いながら受け流すポルナレフさんに少しムッとする。きっと彼は、私のこの気持ちをただの気の迷いとでも思っているんだろう。
「でも、君にはもっと相応しい相手が居るさ」
ああ、ほらやっぱり。微笑みを浮かべるポルナレフさんに胸の内が黒くなる。ああ、本当に彼が死んでいてくれて、良かった。
「要りませんよ。あなた以外の相手なんか、要りません」
「…相手も何も、私は」
「あなたは」
何か言おうとしたポルナレフさんを遮る。ほんの少し眉間に皺を寄せて開いていた口を閉じたポルナレフさんに近づいた。彼の目の前に膝を折って見上げる。
「あなたは美しい。その凛とした佇まいも、真っ直ぐな瞳も。ああ、勿論それはスタンドにも表れていますよね。鎧に身を包んだ騎士。あなたにぴったりだ。隠している瞳も見て見たかったけれど…触れられないのが少々惜しいですね」
にこりと笑いかけた私に対してポルナレフさんの顔色は少々悪いようだ。いきなりこんな事を言われて気味が悪いのかもしれない。しかし、彼はどうしようもないのだ。だって彼はこの中から出ていくことはできない。そう、逃げることはできない。
「ポルナレフさん、私ね我儘なんです」
「我儘?」
「ええ」
いきなり話題が変わったせいか目を瞬かせる姿も愛おしい。
「愛した人が誰かの目に触れられるのが嫌なんです」
「…確かに我儘だな」
「ええ。だからね、いつも殺してしまいたくなる」
少しばかり見開かれたその瞳を見つめながら微笑む。
「他の誰かに取られるくらいなら殺して私だけのものにしてしまいたい。でも、そうしたら寂しいでしょう?だってもう何も喋ってくれないんですから」
「そう、だろうな」
先程よりも顔色が悪くなったポルナレフさんが頷く。色濃くなった警戒の気配に背筋が震える。
「でも、手に入れたら殺してしまいたくなるし、手に入らなかったらどうやってでも手に入れたくなる。例えば動けなくする、とか」
「また物騒な話だな」
「ええ。でも、それだとこれまた嫌われてしまって悲しいんですよねえ」
ふう、ため息をつく私から距離を取ろうとするポルナレフさんに首を振る。
「どこに行こうって言うんですか」
あなたはどこにも行けないのに。
「だからね、あなたが死んでいて良かった」
殺すことは出来ないし、手に入れることもできないがどこかに行ってしまうこともない。嫌われたとしたって、彼は危害を加えてこない女に手を出すほど非情でもない。ならば全力で付け込ませて頂こう。
「他の人達にもあなたが見られるというのは少々不満ですがね」
嫉妬してしまう。いっそ私にしか見えなければよかったのになあ。
「ねえ、ポルナレフさん」
「…なんだ」
「私ね、死ぬときはあなたの側で死にますよ」
あなたの目の前で、あなたの瞳を見て。
「だって、あなたは優しいから。そうしたら絶対に忘れないでしょう?」
あなたは、私の事を忘れずに、ここでずっと暮らしていくんです。
「あなたが死んでいてくれて、本当に良かった」
私はただ、あなたを愛し続けられる。
微笑んだ私に、ポルナレフさんは酷く苦い顔をした。
目を付けられた男ねえ、出来ればもう一度殺したいくらい愛してるんですよ
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