小説 | ナノ






後ろから伸びる手に女が振り向く。そして甲高い悲鳴と共に暗転していく画面。
後味の悪い最後に何とも言えない気持ちになった。隣で震えている恋人になんと言おうか考えながらリモコンに手を伸ばす。停止ボタンを押そうとした瞬間、小さな音が真っ暗なテレビから聞こえた。
もう一度画面を見たその瞬間、アップになった目が映る。流石に驚いて肩が跳ねた。そして、その映し出された目の中に血塗れの女の姿が映し出されているのに気付く。思わず固まっていると、ブツリと音がしてエンディングロールが流れ始めた。

「す、すげえ終わりだったな。流石にビビたっぜ…」

普通直ぐに流れ始めるエンディングロールが出なかったのはこのせいなのか、とか気づかない奴もいたんだろうな、とか考える。それにしても衝撃的な演出だった。ぶっちゃけるとちょっとどころかかなりビビった。

「…おーい?」

今度こそ停止ボタンを押して隣を見る。声をかけても何の反応もないので目の前で手を振れば、ぎこちない動きでこちらを見た。その瞳には薄っすらと涙の幕が張っている。

「じょ、仗助」
「お、おう。そんな怖かったか?」

始めてみる涙に先程の映像よりも余程驚きつつ涙を拭ってやる。その顔は少しどころでなく青褪めていた。
…くそ、露伴のお勧めなんて聞くべきじゃなかった。そりゃあ彼女と見るのにいいホラーはないか、と聞いた俺が悪かったのかもしれない。オレの事を徹底的に嫌っている露伴なら洒落じゃないくらい怖いのを勧める可能性は確かに存在していたのだ。
でも、幾らなんでもこんなものを勧めなくたっていいじゃないか、なんて責任転嫁に近いことを考えていると、腹部に衝撃が走った。

「きょ、今日泊まってって…!」
「は、はあ!?」
「だって今日お父さん達旅行行ってるんだよ!?帰ってこないんだよ!?」
「そ、それ余計不味いだろ!」

他に誰もいない家に恋人である男女二人きりと言うのはよろしくない。非常によろしくない。しかも思春期だぞオレは!!!

「でも一人じゃトイレもお風呂も入れないよ!」
「いや、せめてトイレは一人で行けって!」

自分で言いつつそこかよ!と思う。どうやらオレもかなり動揺してるらしい。

「大丈夫!扉の前で待っててくれたらいいから!」
「だ、だからってよお…」

涙目プラス上目使いというコンボにオレの語気も弱まる。元はと言えばあまりスキンシップを取らないこいつと近づくためにホラーを見ることにしたのだ。他でもない露伴にまで頼って。ならばこれはオレの努力が実を結んだと言えるのではないだろうか。

「お願い…」

ぐらりと理性が揺れる。想像以上の効果だ。いっそこのまま泊まってもいいんじゃないかとオレの中の悪魔が囁く。これはチャンスだと。
だがしかし。逆に良心と言う名の天使が囁く。…純粋に怖がっているこいつにそんな無体なことをしていいのか。オレの我儘でこんなに怖がらせたのにそんな下心を持つなんて、と。
脳内で激しく悪魔と天使が言い争い…軍配は天使に上がった。

「…仕方ねえなあ。じゃあオレんちに行こうぜ」
「え?」
「お袋もいるし人が多い方が怖くねえだろ?」
「仗助…!」

オレの言葉にキラキラと目を輝かせ喜ぶ姿に苦笑する。頭を撫でてやりながら心の中で大きなため息を一つ。…惚れたもの負けというのはこういうことなんだろう。



狼になりそびれた男
今度こそはと悪魔が力なく囁いた



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