玄関を開いた途端視界に溢れかえる服やら小物やらに肩を落とす。とりあえず虫が湧きそうなものは放置されていないのが救いだろうか。
「ちょっとあんた達もう少し頑張んなさいよ」
跡が付いたら落とすのが大変なのでなんとか足の踏み場を確保しながら中に入った。私の声に振り返ったジェラートがにこやかに手を振ってくる。
「お、来た来た!」
「来た来たじゃないわよ」
悪びれない様子に脱力しつつ肩に下げていた鞄を投げつける。それを受け止めたソルベが無表情のまま悪いな、と呟いた。
「そう思うならもう少し自分たちでどうにかしなさいよ」
ジャケットも椅子に放って腕まくりをしながらため息を一つ。これがこいつらを甘やかしてるのだと分かっていてもやってしまう私も大概だ。
「大体ジェラートはともかくソルベは掃除できんじゃない」
「お前に任せてるうちに忘れた」
「んな簡単に忘れられてたまるか!」
私のツッコミに肩を震わせるジェラートを睨み付けておく。こんな関係性を築き上げたのは何時頃からだったろうか。
チームに入って暫くした頃。酔いつぶれた私を引き取ってくれたのがこの二人だった。朝起きてソルベの作ってくれたスープに胃袋を鷲掴まれた。そしてちょくちょくたかりに来る私に料理の代償として掃除が課せられたのである。
…思い返せば私がこの状況を作り出した張本人だった。ちょっと道を間違った気がする。
まあ、本当のことを言うとこうして受け入れられるとは思っていなかったのだ。だってこの二人はチーム内でもデキている、という扱いである。入ったばかりのころの私もそれで間違いないと思っていた。だっていつも二人でいちゃついてたし。
だからお邪魔無私な私は数回も尋ねれば拒絶されると思って、その間思う存分美味しいご飯にありつこうとしていたというわけだ。思い返せば食い意地が張っているというか勝手なもんだと思う。
だけれどこの二人は私を嫌な顔せず受け入れた。そうして付き合っていくうちに別にこの二人が恋仲でもなんでもないと知った。それぞれ長続きはしないが彼女が居ることもあったし。
ただ、二人にとってお互いは背中を預けられる相棒で、世界で一番大事だというだけだ。恋とかそんな言葉では言い表せない位深い信頼やらなんやらで結ばれているだけ。
まあ、いつもそれが受け入れられずに女の子からビンタ貰って帰ってくるけど。
…そんな二人の中に私を受け入れてくれた、というのは実は結構嬉しかったりする。まあ絶対言わないけど。
掃除が一段落してソファーの空いたところに腰を下ろす。そこに間髪入れずソルベが湯気の立つコーヒーを渡してくれた。出来る男だ、と頷いているとジェラートが歓声を上げた。
「ここいいな!」
指をさした先には美しい海と白い家。…確かに素敵な立地だ。
「なー」
「んー?」
「いつかさ、三人でこういうとこ住もうぜ!」
ジェラートの言葉に目を丸くする。にこにこと笑うジェラートは無邪気な子供の様だ。
「金貯めてさ、チーム抜けてこういう海の見える家買うんだよ」
「そんなの夢物語でしょ」
私たちは暗殺チームだ。組織の汚い面を背負う役割。例え私たちが功績を上げたとしても、そんな私たちが組織を抜けることを許されるはずがない。っていうかんな高そうな土地買えるほど賃金良くないし。
過酷な労働環境に頭を痛めているとジェラートが私の頭を叩いた。
「夢は持っとくべきだぜ?いつどうなるかなんて分かんねえだろ?」
ニッと笑うジェラートに呆れてソルベに目を移す。ソルベは少し考えるように目を伏せてから、どうせならチームの奴ら皆で抜けるかと呟いた。
「それいい!オレらは三人で暮らすだろー?あいつらは…どっかアパート買い占めるとか!」
「それ文句言われそう」
「こういうのは早いもん勝ちだって」
ジェラートが悪い顔をして笑う。ソルベは何時もと変わらない無表情だけどどこか柔らかい雰囲気で。
「…あんたらの世話とか、仕事以上に疲れそうね」
そう言って三人顔を見合わせて笑った。
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