窓から差し込む夕日をぼんやりと眺めていた。部屋が照らされて赤く染まる。どこか夢の続きのような、現実感のなさが不安だった。
「起きたのかい?」
後ろを振り向けば、花京院君がコーヒーを持って立っていた。
「うん…変な寝方してたせいかな、首が痛いや」
心の中に蟠るものを隠そうと笑いかければ、コーヒーを置いた花京院君が私の肩に手を置いた。リズミカルに行われるマッサージに思わずうっとりと目を閉じる。
「少し凝ってるね、パソコンのし過ぎじゃないか?」
「うーん、仕事が忙しくって」
気持ちの良いそれに思わずまた眠りたくなってきた。これはまずいと、ありがとうと手を重ねて止める。そうすると花京院君はにこりと笑って隣に腰かけてきた。
「今日は晴れてるから夕日がきれいだね」
「…うん」
先程よりは沈んだが、未だに赤く空を染める夕日に花京院君が照らされる。彼の赤っぽい髪がそれによって更に赤く見えた。思わずそれに触れれば、きょとんとした顔をする。
それに構わずに髪や頬に触れていけば、今度は花京院君が目を閉じた。それをいいことにペタペタと遠慮なしに彼に触れる。
「どうしたんだい?」
「…どうしたんだろうねえ」
彼の問いかけに曖昧に答えながら動く唇を指でなぞった。その瞬間花京院君の唇が素早く私の指先をとらえた。柔らかく甘噛みされた感触に目を丸くすれば、悪戯が成功した子供のように笑う花京院君。なんだかそれが悔しくて、指を引き抜いてやる。そしてうっすらと開いたままの唇を奪った。顔を離せば、彼の顔が夕日にも負けないくらい赤くなっていて。
「…不意打ちはズルいんじゃないかな」
「花京院君に言われたくないなー」
小さく笑いながら花京院君の胸に顔を寄せる。とくり、とくりと動く心臓の音にほっと息を吐いた。私の頭を撫ではじめた手の感触が気持ちよくて暫しの間じっと寄り添う。
「ねえ」
「んー?」
「幸せだね」
その言葉に顔を上げれば花京院君は穏やかに笑っていて。私もそれに微笑み返す。
もう、胸に燻っていた不安は綺麗に消えていた。
安定剤のような男夕日が落ちた暗い部屋の中、私たちはまたキスをする
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