小説 | ナノ






「寒いね」
「そうですね。…どうぞこれを使って下さい」
「え、いいよ悪いし!フーゴくん風邪ひいちゃうよ!」
「いいんです、あなたが寒い思いをする方がぼくにとっては耐えがたい」

そう言って巻いていたマフラーを私に差し出すフーゴくん。それを手に取ればいい子ですね、なんて言われてしまう。

「また子供扱い」
「あ。…すみません」
「いいの。フーゴくんからしてみたら子どもだもん」

そう、私とフーゴくんの間には5つも差が有るし、実際の年よりも遥かに賢く大人びた彼にとって私は子どもに違いない。そんな私に何故フーゴくんが一緒に居てくれるかと言うと、彼は私の警護兼監視役だから、以上。
父の違う…いわゆる異父兄にあたるジョルノが大きなギャングのボスになったらしい。らしい、というのは久しぶりに会った兄は相変わらず優しくも腹黒く、しかし決して後ろ暗い人間の雰囲気ではなかったから現実味がないのだ。いや、私の様な小娘にそんなことを見抜かれる様な人間ではないからボスと言う地位についたのかもしれない。
まあともかく、ジョルノの弱みとなりかねない私を守るため、そして勝手な行動に出ないようにと遣わされたのがフーゴくんだ。

始めはなんだこいつ、と思った。だって服に穴空いてるし、幹部と言うには若すぎた。いや、それを言えばトップであるジョルノやその側近のミスタさんもだが。
だけど、こうしていつも一緒に居るうちに少しづつ印象も、彼に対する思いも変わってきた。信用ならないから、いい人、そして好きな人。いつの間にか彼は私にとって特別、になっていたのだ。
でもそんな事を彼は知る由もないし、私も教える気はない。仕事熱心でジョルノに忠実な彼の事だ。この思いを告げればきっとジョルノの耳に届いてしまうし、場合によっては好都合とくっつけようなんてするかもしれない。もちろんフーゴくんとそういう関係になれるのは嬉しいが、そこには彼の気持ちは伴っていない。ただ命令されたからそうしているフーゴくんの形をしたお人形みたいなものだ。そんなものは、要らない。

「どうしました?」
「え?」
「随分と難しい顔をしていましたよ」
「えっと。…学校で出た宿題が難しくて」

そう言えばフーゴくんはキョトンとした顔をした。ああ、こんな顔もするんだな、なんて新しい発見に少しばかり心が浮上する。

「あなたがそんな事を言うなんて珍しいですね」
「そうかな?」
「ええ。…ボクで良ければお教えしましょうか?」
「…いいの?」
「もちろんです」

頷くフーゴくんに頬が緩む。普段家につけば彼は別室で仕事をしているので滅多に会えないのだ。ああ、咄嗟に出た言い訳だけどなんてナイスな選択だったんだろう。嬉しくてスキップしてしまいそうだ。

「そんなに急ぐと転びますよ」

いつの間にか足早になっていたらしい私の手をフーゴくんが掴んだ。その手から伝わる彼の体温に顔が熱くなった。

「あ、あの」
「ああ、すいませんつい…」
「え、あ!…よかったら繋いでてもらっててもいい、かな」
「…もちろん」

私の言葉を彼がどう受け取ったかは分からない。ただ、浮かべた微笑みがひどく優しく見えたのは確かだ。出来る事ならば、その笑顔をなんの柵もなく見たかった。


忠実な男
あなたの優しさが何故与えられるかなんて、考えたくない

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