小説 | ナノ






「やあ、元気かいスケコマシ」
「久しぶりに会った兄弟子に第一声で言う事かそれは」
「スケコマシは間違いないだろう?」
「…」
「おや、反論がない所を見ると本当に女漁りに精を出していたわけか。全く、人事ながら呆れるね」
「相変わらずお前は可愛くないな」
「君に可愛いと思われても嬉しくないからね。むしろこれからもそう思っていてくれ給えよ」
「そんなんだから何時まで経っても彼氏の一人も出来ないんだお前は」
「欲しいとも思わないねそんなの」
「それが年頃の女の言うセリフかよ」
「ふん。君を見ていたら恋愛に夢なんて持てる筈もないだろう。特定の恋人は作らないくせに女からは特別として扱われる君を見てたらね」
「全員心から愛してるから絞れなくてな」
「刺される男の常套句だな。…本当に君みたいな男に惚れる女の気持ちが分からないよ、シーザー」
「なんだ嫉妬か?」
「…何処をどう取ったらそうなるのか教えてくれないか」
「何処って…目、とかな」

シーザーの澄んだ瞳がジッとこちらを射抜く。居心地が悪くて身動ぎすれば、スッと逸らされた。

「…そうだな、次会う時までにお前が可愛らしい淑女になってたら一途になっちまうかもな」
「…嘘吐きだな君は」
「おれは本気だ」

もう一度合わせられた力強い瞳が、揺るぎない意思を伝えてきて。

「帰ってくるのが楽しみだな」


そう言って君が笑ったから。少しづつだけど言葉づかいも変えて。ほんの少しだけど自然に笑えるようになって。君の瞳に自分だけが映れるなら、と。そう願っていたのに。君は帰ってくることすら、無かった。


「やっぱり君は、嘘吐きだったね」


彼の瞳の様な青空の中、私は一人涙を流す。


嘘吐きな男
帰ってくると、言ったじゃない



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