小説 | ナノ






「ディオ!」
「おや。どうしたんだい」
「そんな優等生面したって騙されないから」
「…随分な言い様だね」
「…昨日エリナに無理矢理キスしたらしいじゃない」
「…さあ、なんの」
「しらばっくれようったってそうはいかないわよ」
「…いきなり人の襟を引っ掴んでスラングを吐くとは。レディのすることとは思えないな」
「話を摩り替えないで。なんでそんな酷い事をしたのよ!あの子がジョナサンに惚れてるの知ってたんでしょう!?嫌がらせのつもり!?」
「それはどう言う意味かな」
「あなたがジョナサンを目の敵にしてるのなんて分かり切った事じゃない」
「…ふん。君の勝手な思い込みじゃあないかい」
「そんなわけないでしょう」
「全く…愚かだな君は」
「なんですって!」
「ぼくがエリナ・ペンドルトンを本気で好きだと言ったら?」
「は?」
「ぼくは本気で彼女に惚れていた。そしてジョジョとのことも知っていて、それが辛くて、苦しくて自棄になってあんなことをしてしまったんだよ…」
「…そんなしおらしい顔したって駄目よ。嘘以外の何物でもないじゃない」
「何故君にそんなことが言える?」
「あなた、一度鏡を見たらどう?ジョナサンを見るあなたの顔、悪意で満ち溢れてるから」
「なんだ、そういうことか」
「なによ」
「君はぼくが好きなのか」
「…どうなったらそうなるのよ」
「そんなこといつもぼくを見ていなきゃ分からないだろう?…ああ、それともジョジョのことを見ていたのかな?」
「な!」
「く、ははははは!これは傑作だ。ぼくは君に感謝されることは有れどこうして罵られる筋合いはない。エリナの居ない今、君があいつの隣に行けばいいじゃないか!」
「…ディオ、あなたって可哀想な人ね」
「なんだと…」
「人を愛することを知らないのね」
「何が言いたい!」
「報われなくてもいい、手に入らなくてもいい。ただ、その人が幸せで有れば、自分も幸せになれる。そんな思いをあなたは知らない」
「そんなものっ、ただの偽善だ!自分の非力さから目を逸らして誤魔化しているだけだ!」
「…本当に可哀想な人。あなたは愛する幸せを知らない」
「っ黙れ!」


目を開けば、そこには闇と跪く屍生人が広がっていた。どうやら、懐かしい夢を見ていたらしい。一つ息をつき、もう一度目を閉じる。瞼の裏には頬を叩かれ、口元から血を流しながらも揺らぐこと無く私を見据えるあの女の姿がまだ残っていた。


可哀想な男
愛する幸せなど馬鹿馬鹿しい。



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