小説 | ナノ






医者に言わせれば命に別状はない、と言う事だった。それを聞いてプロシュートの全身から力が抜ける。冷静になってから考えれば名前の出血はそう酷くはなかったし、相手のスタンド能力も即効性の神経毒、しかし致死性はなしと言ったものだった。だが、あの時。名前が倒れ込んだあの瞬間プロシュートの脳内からそんな細かな事は吹っ飛んでしまった。怒り任せに相手を直触りで殺した後、後始末もそこそこに帰ってきてしまったのである。弟分をマンモーニだなんだと叱れない体たらくだ。
久方ぶりの失態に頭を抱えつつ、名前を見る。辛そうだった呼吸は大分落ち着いていたが、顔色はまだ悪い。血の気の失せた青白い肌の色にプロシュートの背筋が寒くなる。もしもあいつの毒が即死する様なものだったら、名前は死んでいた。こうして生きているのは運が良かっただけなのだ。起こさないように気を付けながら触れた頬からは確かに生きているものの熱が伝わってきて。プロシュートは詰めていた息をそっと吐き出した。


一晩経っても名前の意識は戻らなかった。もう一度往診に来た医者は傷と疲労から熱を出しているのだろうと言い、もう一晩もしたら目が覚めるだろうと言う。本当だろうな、とプロシュートが凄むと不快そうに眉をしかめた。闇医者をしていればこういった場面に何度も出くわしているのだろう。怯えるそぶりも見せずに明日になれば分かるさと言って帰って行った。
プロシュートは去って行く医者の背中から目を逸らし名前に目を向けた。熱は高いのに頬には未だに赤みが差していない。これで呼吸の音が聞こえなかったらまるっきり死人の様な姿である。しかし、額に手を当てれば確かに平常よりも熱い。それにどこか安堵しながらプロシュートはベッド脇に置いてある椅子へと腰を掛けた。


「名前まだ起きないの?」


音も立てずに入ってきたメローネに無言で頷く。プロシュートの背後から体を乗り出して名前を見つめながらメローネがポツリと呟いた。


「まるで死んでるみたいだよな」


その言葉に弾かれるように立ちあがったプロシュートはメローネの首を掴む。首に爪を立てられたメローネがニヤリと笑った。


「あんたにしては珍しい顔してる」

「ああ?」


地を這う様なプロシュートの凄みに、更にメローネの笑みが深まった。


「今のあんたの顔泣きそうな子供みたいだ」

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