「旦那様」
「ああ、君か。どうしたんだい」
「ジョナサンお坊ちゃまが帰ってまいりました。直ぐにお食事になさいますか」
「ふむ…。そうだな、そうしてくれ」
「かしこまりました」
一礼して出ていこうとした所をジョースター卿に呼びとめられた。
「なんでしょうか」
「君はもうすぐ誕生日だったね」
「…はい」
本当は私の誕生日は分からない。薄汚い乞食だった私を見つけたジョースター卿が、この屋敷に連れてきてくれたあの日が私にとって誕生日となったのだから。
「年月とは早いものだ。君がここにきてから…」
「十年になります」
「そう、もうそんなに経つんだな。ジョナサンも大きくなるはずだ」
細められた目には今までのジョナサンお坊ちゃまの思い出が映し出されているのだろうか。浮かべられた優しげな笑みに、どこか寂しさを感じる。
物心ついた頃には既に孤児だった私に人の温かさを教えて下さったのはジョースター卿だ。幼い私にとってジョースター卿は父の様に慕い神のように崇める存在だった。そしてこの歳になれば、私がこの方に持っていていいのは仕えるものとしての忠誠心だけだと分かっている。
神の様に崇められる事を喜ぶような下卑た方ではない。そして、私の様なものが父の様に慕うなんておこがましいお方なのだ。そう、頭では理解している。しかし、子供の柔らかな心に刻み込まれた畏敬の念と、理想の父と言う憧憬は未だに消えうせず。私の心の奥深くに閉め込んでいた。
「ちょっとこちらへおいで」
いつの間にか散っていた焦点ががジョースター卿の言葉により戻る。優しげな表情のまま手招きされ、側へと近付けば何かを差し出された。
「これは…」
「誕生日祝いだ。後ろを向きなさい、着けてあげよう」
恐れ多くもジョースター卿の手によって私の首にネックレスが飾られた。キラキラと輝くそれは決して安物ではないだろう。
「旦那様、このように高価なもの私にはそぐいません」
「いいや、良く似合っているよ。君はとても可愛らしい」
だから、もっと背筋を伸ばして笑っていなさい。そう言うジョースター卿の笑顔が眩しくて。背筋を伸ばせと言われたばかりなのに私は俯くことしかできなかった。
神様みたいな男仕舞い込んだはずの感情が、雪崩出てきてしまう
[ 7/29 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]