小説 | ナノ






目を閉じて微動だにしないDIOの厚い胸板に乗ってみる。
何の反応も返ってこないが、勿論起きているだろう。何も言わないのは楽しんでいるのか、呆れているのか本当に興味がないのか。
まあ、どれでも私には関係のない事だ。

白い頬を撫ぜ、金の髪を摘まんで先の方へキスをする。
相変わらずピクリともしないのを良い事に、そこから額に、瞼に、頬に、…唇に。小さなリップ音を立てながら触れていった。
一通り終えて、気が済んだ所で身体を起こそうとするが、それよりも早く腰に手が回される。今度はこちらが動けなくなる番だった。

「随分と積極的じゃあないか」
「別に…そう言うつもりではないんだけれど」
「ふむ、ではどういうつもりだったんだ?」

にやにやと笑うDIOの目は爛々と輝いていて、これは明日の朝が思いやられるな、なんて頭の片隅でため息をついた。
腰に回された手を押せば少し力が緩められる。動けるようになった身体を引っ張り上げて、またDIOの唇を奪った。

「…DIOとキスするといけない事してる気分になるなって、思って」
「ほう…何故だ」
「だって、冷たいんだもの。まるで死んだ人みたい」

死んだ人とキスするなんていけない事でしょう?と続ければ、DIOの唇が弧を描くのを止める。

「私は死んでいないがな。…それよりもお前がそんな事を気にするとはな」
「そんな事って?」
「そこらの有象無象が決めたルール、とやらだ」

そう言いながら私を見るDIOの目はさっきとは一転して冷え切っているし、もう腕も回っていない。言外に退けと言っているのだろう。このまま乗っていたら今日の食事は私かもしれない。そう思いながら、今度は私の唇が笑みを作る。

「そりゃあ、気にするわ」
「邪魔だ、退け」

言葉で言わないと分からないと思ったのか私の言葉を無視してそう告げてくる。しかし、私はそれを無視してもう一度キスをした。

「…だって、いけない事するのって、楽しいじゃない」

世の中の有象無象とやらがルールを決めてくれたおかげで、楽しいことがもっと楽しいのよ?小さく首を傾げながら更に笑みを濃くして、そう告げる。
DIOがほんの少し目を見開いたかと思うと、世界はぐるりと回って。天井と影になったDIOが視界を埋める。見え辛いが、DIOも私と同じように笑っているようだ。どうやら機嫌が直ったらしい。
そんな事を考えながら、DIOの首筋を指先でなぞる。

「だから、私DIOが好きよ。だってあなた…」

私の言葉は最後まで言えずにDIOの口内へと消えていった。
唇と同じく冷たい舌を受け入れながら、目を閉じる。ああ、やっぱり死体とキスしてるみたいだ。

いけない事で出来てる男
だから、好きよ

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