小説 | ナノ






カイロでのDIOとの死闘から半年。あの旅が夢だったかのように、以前と変わらぬ日常がおれを取り巻いていた。
だが、そんな日々とは真逆におれの心中は穏やかではない。

初めて親友と呼べる存在だった花京院。今でもふとした瞬間に隣に彼が佇んでいる気がして話しかけそうになる。彼と旅をしたのはたった二カ月程度だというのに、その記憶は今もひどく鮮やかに残っていて。
アブドゥルの事もそうだ。イギ―も。彼らと共に旅を終えられなかったことが、未だに心に突き刺さっていて。それは今もドクドクと血を撒き散らしている。

思い出せば握る手に力が籠った。手のひらにはいくつかの爪痕が残されていて。これらの傷が全て癒えた頃には、少しは前に進めているのだろうか。
そんな問答が何度も頭の中を過った。

酷く、女々しいと自分でも思う。しかし、これもこいつに言わせれば成長なのだろうかと、床に丸まる名前を見降ろした。…そういや何でこいつは床で寝てるんだ。抱き上げてベッドの上に乗せてやる。

…目に見える出来事として一番の変化はこの名前の事だろう。花京院やポルナレフはおれの隣に立つこいつを見たら何と言うのだろうか。
またもや仲間の事に思考が飛ぶ自分が情けない。帽子の鍔を引き下げながら小さく自嘲する。ポケットに入っている煙草を取り出そうとして、学ランは名前の手の中にあることを思い出した。全く、おれは何をしているんだ。

煙草で気を紛らわせられないので、学ランを握りしめ眠る名前の小さな頭を眺めながら、こいつと初めて交わした会話を思い出していた。


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