小説 | ナノ






「プリントが…俺のプリントが…」
「だからごめんって…」


さっきまで仗助の家に遊びに来て、仲良くゲームをしていた。
そこまではいつも通り。でも、ヒートアップしすぎてしまったのだ。
コンマ一秒差でゴール出来たことが嬉しくて、思いっきり振り上げた手は横にあったカップをひっくり返して。中に満たされていたジュースは机の横に置かれていた仗助の鞄に吸い込まれてしまった。
鞄の中には非常に珍しい、仗助が頑張って解いたプリントが入っていたらしく。
普段やらずにいる分、かなり思い入れがあったらしい。未だにプリントを握りしめたまま動かない。

さっきから謝りっぱなしで数分が経過してしまった。もちろん悪いのは私なのだが、あまりの居たたまれなさにそろそろ謝るのも辛くなってくる。どうしようか頭を悩ませていると、一つの名案が浮かんだ。

「わ、私帰ってからやろうと思ってたし、まだ何も書いてないからオーソンでコピーしてくるよ!」
「別にいいっスよ…乾かせば何とかなるし…」

こちらをちらりとも見ずにそう零す仗助の背中には哀愁が漂っていて、かなり心苦しく感じる。

「じゃあ、お詫びに何か好きな物一つ買ってあげるよ!」
「いらねーよ…」

ああ、どうやら本気で拗ねさせてしまったようだ。どうしようもなく立ちすくむ私に漸く仗助が視線を寄こす。

「ほんとーに、悪いと思ってんのか?」
「もちろん!」

仗助の質問に大きく頷けば、ニヤリと笑われた。…あれ?この状況でその顔は何か違うんじゃないかな…?

「じゃあ、一つお願い聞いてくれよ」
「お願い?」
「お前からキスして欲しいんだよなー」

その言葉に顔に熱が集まる。

「な、何言って…!」
「悪いと思ってんだろ?」

そう言われたらもう何も言い返せない。せめて目は瞑ってくれと言えば、更に楽しそうに口を歪めた。


実は計算高い男
本当はわざとあそこに鞄を置いといたって言ったらお前は怒るだろうなー

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