※流血表現注意
「うぁー…」
失敗した。結構重大な失敗だ。眼下に広がる血だまりと、所々に散らばる人体の一部であったもの。足元に転がってる苦悶の表情をしている生首を蹴っ飛ばす。そのせいで跳ねた血が裾を汚して余計憂鬱な気分になる。
「DVD持ってくんの忘れた…」
あれ今日までなんだけどなあ。明日になると延長料金ついちゃうけど、また持って来るのもだるいしなあ。折角レンタルショップの傍で殺ったのに。くしゃくしゃと頭を掻き毟る。見上げた空には厚い雲がかかっていて、更に気が滅入った。…あー、どうするかな。
「ひ、」
後ろで息を飲むのが聞こえて振り向けば、真面目そうな青年が目を見開いて震えていた。…あー、とりあえずここ離れるべきだったかな。本当に今日は冴えない日だなんて考えながら銃を取り出す。スタンド使ってもいいけど今日はもう面倒くさい。さっさと終わらせて、DVDは諦めて。部屋に戻って熱いシャワーを浴びよう。そう思いながら銃口を定めた途端、その青年がぶっ倒れた。
「おいおい、一般人に見られるなんざ何やってんだよ」
「あれ、プロシュート」
ぶっ倒れた青年であった老人はもう事切れたのか、ピクリとも動かない。それを足蹴にしながら綺麗な眉を顰めるのは我らが兄貴だ。
「もっと綺麗に片づけらんねーのかお前は」
「出来る限り惨たらしくってのがお望みだそうで」
そうじゃなきゃ私が出るはずないじゃんと肩を竦めれば確かにな、とシニカルに笑う。あは、相変わらず美人さんだね。何も知らない人が見たらモデルとかに見えるんだろなー。
「で、どうしたの」
「あ?お前がこれ忘れてったから持って来てやったんだよ」
プロシュートが掲げたのはついさっきまで私の頭を悩ませていたDVDだった。
「プロシュート…!」
「あ?」
「グラッチェ!愛してるわ!」
「は、そんなセリフはベッドの中で言って欲しいもんだな」
「じゃあ二人で見るのにしっとりしたラブストーリーでも借りる?」
「…お前すぐ寝ちまうだろ」
「あれ、そうだっけ?」
「ったく、行くぞ名前」
つかつかと近寄ってきたかと思えば、腰を抱かれ歩き始める。
「ねえねえプロシュート」
「あ?」
「もしかして私が帰るの待っててくれたの?」
普段ならもう寝ている時間なのに、わざわざ起きててくれた上に、DVD持って来てくれたんでしょ?
「…まーな」
「愛されてるなー私」
「今更気付いたのかよ」
「まさか!」
ケラケラと笑う口を塞ぐために降ってきたキスを甘んじて受け入れる。
雲の途切れた隙間から注ぐ月光が血だまりを照らして。
「…レッドカーペット見たい」
プロシュートは私の言葉にキョトンとした後、言いたいことに気付いたのか小さく笑った。
「じゃあお前は主演女優な」
「プロシュートは監督ね」
「あ?何でだよ」
「だって俳優じゃ人気出過ぎて困るじゃん?」
「はっ、随分可愛らしいこと言うじゃねーか。なんか疾しいことでもあんのか」
「プロシュートのシャツにコーヒーこぼした」
「…」
「いった!」
頭突きを繰り出すとプロシュートはさっさと歩き始める。
「さっさとしねーと置いてくぞ!」
「待ってよー」
角を曲がる瞬間、振り返ってこちらを向く生首に手を振った。
さようなら観客さんこの続きはまたどこかの路地裏で。
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