小説 | ナノ






思春期とは何だったろうか。

子供の頃の万能感が崩れ、完璧だと思っていた親の欠点に気づき、親に反抗してみたり気持ちが不安定になったり。そんな時期。なーんて小難しいことは今はどうでもいい。
思春期って好きな子に触れてみたいとか、キスしたいとか、それよりもっと過激なことをしたい!なんてもんもんとするもんじゃないだろうか。
少なくとも私はそうだ。はしたないとか言われようとも触れたいものは触れたいし、したいことはしたい。所詮人間だって動物なんだ。好きな相手が出来たら男女関係なくそんなもんなんじゃないの?

だのに、だのに!私のお相手と言ったらどうだろうか!
彼女と自室に二人。肩が触れ合う距離に居るのにそんな様子は微塵もなく。普段と変わらぬ穏やかな様子で新しく買ったゲームの話なんてしている。

どうやってセットしているのか不思議に思う前髪には夕陽が反射していて、いつもよりも赤く、燃えるようだ。
その髪に触れたい。出来ることならそのまま指を絡ませて、引っ張って。ゆっくりと動く唇を私のそれで塞いでしまいたい!


「で。…名前、聞いてるかい?」

「え、…ごめんなさい。ボーっとしちゃってた」

「僕こそごめん…あまり興味のある話じゃなかったよね」


困ったように笑う花京院君。なんて可愛らしいんだろう!


「ううん、花京院君の話楽しいよ?」


そう言えば今度は少し嬉しそうに笑う。嗚呼、本当はその唇を奪ってしまいたいって思ってたと告げたらどんな顔をするのかしら!
その瞬間の花京院君の反応を考えてしまったらもう止まらない。

花京院君の髪を撫でれば、照れたように微笑む。その顔も大好きよ。でもね、今見たいのはそんな顔じゃないの!
後頭部に回した手に力を込めれば、近付く唇。それに触れれば、驚いたように目を開く。私の名前を呼ぼうと口を開いた隙に舌を差し込めば、小さく体が跳ねた。

始めはされるがままだった花京院君もちょっとづつ舌を絡めてくる。恐る恐る、でも伝わってくる舌の温度は火傷しちゃいそうなくらい熱く感じた。
口の端に流れた唾液がどちらのか分からなくなるくらいそうして。

漸く離れた時には髪と同じように赤くなった頬。


「名前…?」


困惑したように私の名前を呼ぶけれど、花京院君の瞳の中にも確かに私と同じような仄暗い熱が籠っていた。
そう!そんな顔が見たかったの!劣情を持て余して、それを私にぶつけたいと思って止まないその顔が!


かっちりと着られた詰襟に手をかければ、制するように手を重ねられる。でも残念。なんの力も入ってないそれは形ばかりの抵抗だと丸分かりだわ!


「ごめんね、花京院君」

「え…?」

「あなたに触れたくてしょうがないの」


花京院君は少し息を飲んで。重ねられていた手が私のスカーフに伸びる。
私はひっそりと微笑んだ。



純情ごっこはもう飽き飽きなの!
清く正しく美しくなんて豚の餌にもなりゃしないわ!

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