「お!主役様ごとうちゃーく!」
その笑顔とセリフに思わず扉を閉めようとしたが一歩遅かった。差し込まれたラバーソールの足を潰す勢いで引くも動く気配はない。
「ちょ、痛い痛い痛い!!!」
「じゃあ足引きなよ」
「そしたら閉めるじゃん!ってかなんなのこの仕打ち!?」
「いや、なんか嫌な予感がしたから」
ラバーソールが涙目になり始めたので仕方なく力を緩める。扉を開いたラバーソールがジトッとした目で睨んできた。
「折角名前の好きな菓子持ってきてやったのに…」
その言葉に目を瞬かせる。
「…なにかDIOに怒られるようなことでもしたの?」
私の言葉にこちらを見ていた何人かが肩を震わせ出した。ダン君に至っては爆笑である。
「お前、信用無いな!」
「うっせーよ!俺そろそろ泣いちゃうよ!?」
「いや、面倒くさいから勘弁してください」
「敬語で言うくらいかよ!」
本格的に機嫌を損ねてしまったのか唇を尖らせるラバーソールの腕をぽんぽんと叩く。ごめんね、と笑えばぷいと顔を逸らされた。
「ホワイトデーだからと思ってわざわざ皆集めたのに…名前ちゃんたら酷い!」
「へ?」
最後だけおどけた様に甲高い声を出すラバーソール。それを見上げながら間抜けな声を上げた。
「…え?名前今日がホワイトデーだって気づいてなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…。ホワイトデーって日本特有のイベントじゃん」
というか多分先月の私のようにお菓子をばら撒くのも多分日本人位だけど。
「その馬鹿がどこからか仕入れてきた情報でな」
「ったく、急に集まれって言われて何かと思ったら…」
漸く笑いが止まったダン君が滲んだ涙をぬぐいながらそう言えば、隣でお茶を飲んでいたデーボさんが眉根を寄せながら苦々しい声を上げた。
「その割には頑張ってたみたいじゃないか」
「ああ!?」
「はいはい。そこまでにしてくださいな」
後ろに現れたテレンスさんが私の肩に手を乗せた。上を見上げればにこりと笑ったテレンスさん。
「先月は美味しいお菓子ありがとうございました」
「いえいえ、お粗末様でした」
お互いぺこりと頭を下げてから中に入る。空いていたソファーに座れば追いかけてきたラバーソールが飛びついてきた。
「とーにーかーく!今日のオレは何もしてません!」
「今日は、ですがね」
テレンスさんの冷静なツッコミに吹き出せば酷い!と叫んだラバーソールが思いっきり抱きしめてくる。ミシミシと不穏な音を立てる背骨に慌てて逞しい背中を叩けば漸く離された。
それから皆が持ってきてくれたお菓子を広げて、テレンスさん特製の紅茶を味わう。何故かラバーソールの持ってきたお菓子の中に激辛のはずれが入っていて、それを食べたダン君がぶち切れるのを皆で笑ったり、危険人物ばかりの集団とは思えないほど穏やかな時間が続いた。
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