「終わったぞ」
その言葉にばたりとベッドに沈み込む。何をしていたわけでもないが妙に疲れた。知らないうちに生気でも吸い取られていたのだろうか。
手を持ち上げて眺めるとそれは綺麗に塗られていた。…器用な奴め。
「そのままの体勢でいろ」
「へ?」
どういうことだと聞き返す前にすぽっと靴下が引き抜かれた。
「ちょ、ま!」
そのまま足首を掴まれて思わず暴れる。こ、こそばゆい!
「こら、暴れるな」
「いや、だって!そこくすぐったい!」
昔からくすぐったいのは苦手だ。特に足裏はダメだ。こうして足首を掴まれただけでこそばゆいような気持になってしまう。ばたばたと動かす足をガシッと掴んだDIOが甲を叩く。
「いいから大人しくしていろ」
「だってー」
「…気絶させてもいいが?」
「…頑張って大人しくしてマース」
諦めて宣誓するように手を上げる。目を閉じて動かない様に努力するがやはりくすぐったい。足を持ち直したり息を吹きかけられるたびにくすくすと笑ってしまう。だが揺れる足にDIOは根気強く付き合っていた。
「ふむ…まあいいだろう」
その言葉に体を起こし足を抱える。手よりも少しばかり斑があるがやはり綺麗に塗られていた。
「おおー」
「…それにしても似合わないな」
その言葉に思わず枕を投げつけるが軽く受け止められてしまった。
「お前にはもっと明るい色が似合う」
「ああ、黒って人を選ぶよねえ」
DIOが塗ってると凄い似合うんだけどなあ。…それにしても。
「覚えてたんだね」
「…まあな」
いつだったか、DIOがマニキュアを塗るのを観察していたことがあった。その時私も塗ってみようかな、と呟いたのである。別に対して考えて言ったことではなかった。ただ昔、それなりにお年頃だった頃はちょくちょく爪を飾っていたのを思い出したからだ。不器用なりにちまちました作業を頑張っていた覚えがある。
とはいえ、DIOのように形のいい爪をしているわけではないし、今の幼い姿には似合わないことが分かっていたので本当にただの思いつきだったのだが。
あんな一言を覚えていてくれたことが妙に嬉しかった。
「…ありがとね!」
「ああ。…来年はちゃんと欲しいものを考えておけ」
ぽん、と頭に乗せられた手に目を細める。うん、と頷けばDIOは髪を透くように撫で始めた。
その優しい手つきに目を閉じる。…本当に何もいらないんだけどな。
DIOがいて、彼らが居て。今日のように笑ったり、おだやかに過ごしていられればそれだけで十分幸せだから。
そんなことを言えば、この人は不満げな顔をするんだろう。つまらない奴だと。だから一年かけて考えておかねば。DIOが満足するような"お願い"を。
「何を笑っている」
「んー?秘密」
頭に乗せられていた手を取ってきゅっと握った。
同じ色の爪が光る
似合わなくともこうしてお揃いっていうのは嬉しいものだね
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