「普段より間抜け面だな」
「いや、綺麗だなあって。てか失礼ですよー」
覆いかぶさってきたDIOの前髪を掻き揚げるように持ち上げる。吹き出物一つないきめ細かい肌に勝手ながらイラりとする。あれか、生き血がいいのか?古来から処女だか美女だかの生き血は美容やら不老長寿やらに利くというが。
思わずぺちんと額を叩けば深かった眉間のしわが更に深くなる。おお怖い。
「何故急に叩かれねばならんのだ」
「いや、憎たらしいほど綺麗な肌してるなあって」
私の言葉に呆れたようにため息をつくと頬が撫でられる。撫でたり摘まんだりと忙しい手を目をつぶって受け入れる。しばらくするとギュッと力を入れられた。
「痛い!…なにするのさ」
「お前の場合放っておくとそのまま寝そうだからな」
「寝ないって!」
「どうだかな」
ふん、っと鼻で笑うDIOの機嫌がいつの間にか直っていた。何故抓られたか分からないがまあ機嫌が直ったならよしとしよう。体を起こしてDIOに寄りかかる。
「それにしても何故あいつらは私には今日の事を教えなかったのだ」
「…さあ、なんでだろうねえ」
DIOから目を逸らしつつ曖昧に笑っておく。…多分日中動けない君の代わりに誰かがプレゼント用意したりするのが面倒くさかったんだと思うよ、とは言わないでおいた方がいいだろう。言ってしまえばまた誰かが泣くことになりそうだ。
「それはお前も同じだぞ?」
遠くを見ているといきなり顔を寄せられて思わず仰け反る。
「はい?」
「お前も教えなかっただろう」
「ああ…いや、教えなかったって言うより頭に入れてなかったというか…」
だってホワイトデーの風習知ってるやつがいるとか思いもつかなかったし。大体ラバーソールはどこから情報を仕入れてきたやら。
一人首を捻っているとDIOが一つ舌打ちをした。
「それで、本当に欲しいものはないのか?」
「うーん…」
腕を組んで考えてみるもののやはり先程と答えは変わらない。欲しいもの、ねえ。
うんうんと唸っている私に見切りをつけたのかDIOが急に立ち上がった。その背中を見ていると鏡台から何かを取り出した。そして私の前へとくると跪くような体制になる。それに目を丸くしていると手が伸ばされた。
「手を出せ」
「手?」
言われるがままに手を差し出すとくるりと裏返しにされる。何をされるのだろうかと不思議に思っていると、側の机に小さな瓶が置かれた。見覚えのあるそれは、普段DIOが愛用しているマニキュアである。
DIOは片手で私の手を掴んだまま大きな手で器用にふたを開け刷毛を取り出す。とろりと粘度のある液体を適量付けて爪に刷毛を這わせた。
ひやりとした感覚に手を引こうとしたが、読まれていたかのように引き止められる。DIOが無言でこちらを見上げた。…言外に動くなと言われた気がする。私は無言のまま了承したとばかりに頷いた。
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