「え?」
「もしも、ディオが居なかったらジョセフは生まれてなくて、ホリィも承太郎もいなかったかもしれない。でも、実際には彼がいたから皆が居て、こうして名前ともお茶が出来る」
不思議だとは思わないかい?彼の言葉に頷いて私も紅茶に口をつける。
…確かに、運命とは不思議なものだ。次元すら異なる世界から記憶を持って転生したかと思えば、その世界のラスボスともいえる存在と出会い、今じゃ主人公たちと家族として過ごして、遂にはそのご先祖様の幽霊とお茶しているのだから。
「全く、不思議極まりませんね」
「ね」
二人顔を合わせてくすくすと笑う。まるで子供たちの内緒話の様だ。
「さて、たまには外に行きませんか?」
「え?」
「梅の花、見に行きましょう?」
立ち上がって手を差し出せば、苦笑される。
「全く、君には驚かされるなあ。今日は寝巻じゃないと思ったら…」
「始めに驚かされたのは私ですよ。それに嫌ならお連れしませんが?」
悪戯っぽく微笑めば慌てて手が掴まれる。本当に可愛らしい人だこと。
「…可愛らしい花だね」
「そうですねえ」
あまり遠出は出来ないので近くの公園になってしまったが、電燈で照らし出された梅はジョナサンさんのお気に召したらしい。嬉しそうにしているのを近くのベンチに座って眺める。
「そういえば桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿、という言葉がありますね」
「へえ、どういう意味なんだい?」
「桜は育つがままに任せて咲き誇らせるのが美しく、梅は剪定してこそ美しいことからそういわれるようになったとか。まあ、言葉のままですね」
「なるほど…確かに桜はそのままが一番綺麗だものね」
ジョナサンさんが少し遠くを見る。その視線の先には桜があるが、蕾が付き始めたもののまだまだ寒々しい様相を呈していた。
「桜が咲くころにまた来ましょうか」
「いいのかい?」
「ええ。お連れしますよ」
嬉しそうに笑ったジョナサンさんがあ、と小さくつぶやいた。
「まいったなあ。お返しに来たのにボクの方が素敵な約束を貰っちゃったや」
「お返し?」
「うん。ええっと、どこだったかな…」
頬を掻いたジョナサンさんがごそごそとポケットを漁りだす。何がしたいか分からないが私はただ待つのがいいのだろう。そう思い静観に徹した。
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