「やっほー仗助君」
「名前さん!?どうしたんすか」
視線の先には寒そうにマフラーに顔をうずめながらこちらに手を振る名前さんが居た。名前さんに会うのはあの夏以来で。イタリアに帰ったはずの彼女がなぜここにいるのだろう。
「いや、所用でこっちに来てね。飛行機まで時間があるから来ちゃった」
「来ちゃったって…」
確かに彼女のスタンドならば時間さえあればどこにでも行けるのだろうけれど。だからと言ってわざわざ雪深いここに来る必要があったのだろうか。と、いうか。
「名前さん飛行機とか使うんすね…」
忙しい人だから飛行機とか使わずに移動してるイメージなのだが。
「折角パスポート持ってるのに使わないのもなんだし。…アリバイ作りにもなりますしね?」
にいっと笑う彼女にこちらの顔が引き攣る。イタリアでギャングの幹部をしているというのは聞いているが、一体何のアリバイを作ろうとしているのかは聞かないほうがいいだろう。
「にしても寒いねー」
「そうっすねー」
二人雪が降る中歩き出す。息を吹きかけている名前の手は赤くなっていた。
「手袋とか持ってないんすか」
「うん。忘れてきちゃった」
肩をすくめる名前さんに少し悩んだ後つけていた手袋を渡す。
「使ってください」
「え?仗助寒いでしょう?いいよ」
「…大丈夫っす」
本当は外した途端冷たい風に顔をしかめたくなったが、男としてのプライドというものもあった。手に持っていた紙袋の持ち手が風に晒されて痛い。それでも平気な顔を装えば名前さんはちょっと考え込んで左手にだけ手袋をつけた。
「…おっきいねぇ」
「名前さんの手が小さいんすよ」
「そうとも言えるかね」
手を何度か握ったり開いたりする名前さんの姿が幼く見えて笑ってしまう。5つ以上年上の人に思うことではないんだろうけど。そんなおれに名前さんはムッとしたように口を尖らせたあと、右手側の手袋を突っ返してきた。
「ほら、つけて」
「いや、両方使ってくださいよ」
「いーから!」
ぐいぐいと押し付けられたそれを根負けして受け取る。おれが嵌めたのを満足げに確認してから、おれの冷たくなった手を、同じくらい冷たくなった名前さんの手が絡め取った。そのままズボッとポケットに突っ込まれる。
「これなら二人とも寒くないでしょ?」
「…そ、そうっすね」
傍から見たら手をつないで歩く俺たちがどんな風に見えるのか、なんて思いながら赤くなる頬をマフラーに埋めて隠した。
→