キャラ誕! | ナノ






「ボク昨日誕生日だったんですよね」


書類の山の向こうからポツリと聞こえた言葉に首を伸ばす。私と同じように書類に囲まれていたジョルノがこちらをチラリと見ている。その眼には僅かに非難の色が見える気がしないでもない。


「昨日?」

「ええ、16日が誕生日だったので」

「…昨日っていうかもう一昨日って感じだねえ」


今は4月17日23時50分。あと10分足らずで18日である。もう全く温もりのないコーヒーを喉に押し込んで、一拍。


「え?誕生日だったの?」

「…ええ」


ジョルノの何とも言えない冷ややかな視線から顔を逸らしつつ引き攣った笑みを浮かべた。


「あー、一日遅れだけどおめでとうジョルノ」

「どうも」


ジョルノの声は冷たい。ギアッチョのホワイトアルバムもびっくりの冷たさである。どうにかこの場面を乗り切りたい。仕事にも支障が出るし。
とはいえいきなり過ぎてプレゼントに適したものも持っていない。スタンドに蓄えたものを引っくり返せばそれなりのものが出てきそうだが、今の上手く動かない脳みそで彼の怒りを収めるものをチョイスできるかは甚だ疑問である。
ほんの数秒腕を組んで考えて、それから積まれた書類に目を向ける。…うん、これでいいだろう。


「ジョルノ、明日の仕事は休みにしよう」

「え?」


ジョルノが目を瞬かせる。その仕草が年相応で思わず微笑みが浮かんだ。


「折角の誕生日仕事で潰しちゃって悪かったね。二日遅れだけど明日は好きに過ごすといいよ」

「でも…まだまだ終わりが見えてませんが」

「とりあえず急ぎの仕事はないし、一日くらい空けたって問題ないさ」


眉間にしわを寄せるジョルノにひらひらと手を振る。ついでに手帳を出して数人の幹部のスケジュールをチェックした。


「ブチャラティやミスタも明日なら忙しくないし久々に話をしてもいいだろうね」

「はあ」

「どこか食べに行くならお勧めのレストラン教えようか?支払いは私に付けておいてくれていいよ」


プレゼント代わりに受け取っておいてくれ、と続ければジョルノの眉間のしわは増々深くなった。…うん?何か外したかな?


「…名前さんはどうするんです?」

「私は…こっちで処理できる書類だけ進めておこうかな」


ボスであるジョルノまで通す必要のない書類と言うのも幾つかあった。これも急ぎではないが一日潰した分滞った仕事を手伝うためにも終らせておいた方がいいだろう。


「名前さんは祝ってくれないんですか?」

「うん?」


今度はこちらが目を瞬かせる番だった。ほんの少しの沈黙を置いて何が言いたいのかなんとなく理解する。


「ああ。時間が空いたらそっちに一度顔を出すよ。せっかくのお祝いだしね」


そう言えばジョルノは一度唇を噛みしめたようだった。いつも気丈にふるまう瞳が揺れたような気がして声をかけようとしたが、それより先にジョルノは席を立った。


「では、明日は休ませて頂きます」


それだけ言って足早に部屋を出る背中を見送る。…どうやら私は何か大きな失敗をしてしまったらしい。痛む頭を押さえながら、ブチャラティ達にメールを送る。私の失敗を彼らにリカバリーして貰うのも悪い気がするが、これ以上の手は思い浮かばなかった。
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