「テレンスさん!」 背中に軽い衝撃とともに何かがぶつかる。声とその感触から誰だか直ぐに分かった。 「おはようございます名前」 「もう一時ですけどね!」 「この館ではこれから一日が始まりますから」 「本当に昼夜逆転ですよね」 なのに皆お肌綺麗で羨ましい、なんて歯ぎしりをする名前を腰から剥がして向き合う。 「で、どうなさったんですか?」 「お手伝いしに来ました!」 「…それは、ありがとうございます」 宣誓するようにピッと手を上げて笑う名前に少々驚きながらこちらも笑顔で応える。いつの間にか館の中に居るのはいつもの事だが、普段とは少々時間が違っていた。今はまだ名前の言う通り昼になったばかりである。主もまだ寝ている筈だが。声をかけても起きずに暇でもも持て余したのだろうか? 「DIO様は起きられませんでしたか?」 「さあ。見に行ってないんで」 首を傾げる名前に一瞬動きが止まった。しかし、名前の方は気にもせずに食器を磨いている。 「…DIO様に会いに来られたのではないのですか?」 「始めに言ったでしょう?今日はテレンスさんのお手伝いに来たんですよ!」 頬を膨らませる名前に苦笑しつつ謝る。しかし、一体何故そんな事をしようと思い立ったのかは分からなかった。 「テレンスさんっていつも働いてますよね」 「仕事ですから」 「でもここ広いのに掃除する人も雇ってないし、お料理もするし。執事ってそんな幅広く仕事しますっけ?」 「部外者をそうやすやすと入れる訳にも行きませんからねえ」 締め切ったカーテンやらなにやらを開け放たれては困るし、主の寝室に間違って入ろうものなら命はない。危険極まりないこの館に後処理が面倒な一般人を雇うメリットはデメリットに比べあまりにも小さいのだ。…例えそれが自分の仕事を圧迫しようとも。 「DIO様のお相手の処理だけでも大変ですしね…」 思わずぽつりと愚痴をこぼしてしまえば、名前は一瞬キョトンとしてから言いたいことに気付いたのか御苦労さまです…と苦笑した。 「まあ、ある程度仕事が終われば自由時間もありますし」 「でも一日お休みってないでしょう?」 「…前に一度お休みをいただいた時、部屋から出たら惨状が広がってまして。それからもう二度と一日休みが欲しいとは思わなくなりましたね」 「…本当に御苦労さまです」 乾いた笑いを立てる名前の頭に手を乗せる。 「仕事自体は嫌いじゃありませんしね。それに…」 「それに?」 「あなたが手伝ってくれてますからね。以前と比べれば格段に楽になりましたよ」 そう言えば嬉しそうに笑う少女についついこちらの頬も緩む。主だけでなく自分も随分と絆されたものだと思いつつ、決してそれを拒んではいない。全く、甘くなってしまったものだ。 |