※シーザー生存設定 「ふわ〜ぁ…」 大きな欠伸をしてジョセフはベッドの上に体を起こす。窓から見える空は気持ちいい程晴れ渡っていた。一度体を伸ばすともそもそとベッドを降りる。適当な格好に着替えて、部屋を出た。 「お」 廊下に出ると、兄弟子と姉弟子が揃って何か紙を覗き込みながら歩いてきた。ジョセフの声に二人とも顔を上げる。微笑んだ二人に差し込んだ光がきらりと反射した。 「ジョセフ、誕生日おめでとう」 「おめでとう」 「あー、なんで言っちゃうかなあ!それは一番にスージーQに言って欲しかったのにん!」 「そりゃ悪かったな」 「ごめんごめん」 近づいてきた名前が宥めるように頭を撫でようと手を伸ばす。ジョセフも自然少し頭を俯かせた。背伸びをした名前の固い掌がジョセフの頭を撫でる。何度か頭上を往復した手が頬に移り、優しく摘まむ。 「ご機嫌は治ったかな?」 「子ども扱いすんなよなあ。俺もう20になったのよ?」 「撫でられて頬が緩んでたくせによく言うぜ」 「何をお!シーザーちゃんだって名前に頭撫でられんの好きなの知ってるんだぜ!?」 「なっ!貴様何を!」 「はいはい、朝っぱらから喧嘩しない」 名前が手を叩いて二人を止める。舌打ちをするシーザーと唇を尖らせるジョセフに名前の顔に苦笑が浮かんだ。 「全く、二人とも仲がいいね」 「だーれが」 「こいつなんかと!」 「はいはい」 肩を竦めた名前の手の中で紙がカサリと音を立てる。なんだか色々と書かれているそれにジョセフは首を傾げた。 「それなんなんだ?」 「買い物リスト」 「エリナさんとスージーQに頼まれてな」 「あの二人仲良くやってるみたいじゃないか。いいお嫁さん貰ったねジョセフ」 「ま、そこは俺が選んだ女だし?当然だろ」 「朝から惚気をどうも。ああ、そうだジョセフ、プレゼントは何がいい?」 「プレゼントー?」 「サプライズも考えたんだがな…折角区切りの誕生日だ。お前が欲しいものをやろうと思ってな」 「何かこれって言うもの有るかい?」 二人の言葉にジョセフは頭を悩ませる。二人ともセンスがいいから服を選んでもらってもいい。いや、普段使いが出来る小物もいいかもしれない。それともいいワインとつまみでも頼んで皆で味わうのもいいだろうか。 選択肢は次々と浮かんでくるが、これ、と言うものも無くて困ってしまう。どうしたものかと思いながらジョセフは待たせている二人をチラリと見てドキッとした。 二人ともジョセフの方を見てとても優しく微笑んでいた。この二人は時たまこんな顔をしていて、それに気付くとジョセフはなんだかこそばゆい気持ちになってしまう。エリナやスージーQ程分かりやすくも、リサリサ程分かりにくくもない、ジョセフに対する慈愛に満ちたその顔。ジョセフには兄も姉も居なかったが、もしも居たのならばきっとこんな風だったのだろう。 ガシガシと後ろ頭を掻きながらジョセフはこっそり深呼吸をする。 「…で、いい」 「ん?」 「聞こえないぞ、はっきり言え。なんだ、高いもんでも選んだのか?」 「ちげーよ!…ふ、二人が祝ってくれりゃそれでいい」 ぽかん、とした顔をする二人にジョセフは座り込んでしまいたくなるような羞恥心に駆られる。穴があったら入りたい、というのはこういう時のことを言うのだろう。自分でも柄に無いことを言っているという自覚はあった。だが、それは紛れもなくジョセフの本心でもあって。 一年と半年ほど前。あの柱の男達との戦いで二人は死に瀕した。こうして今まで通り動けるようになったのも半年ほど前の事だ。無事エリナの元に戻って、SPW財団の病院に入院していた二人を見た時ジョセフは心臓が止まるかと思った。いつも憎まれ口を聞きながらも頼りになる兄弟子が、柔らかい笑みを浮かべながら尻を叩いていてくれた姉弟子が、チューブに繋がれて白いシーツに力無く横たわっている。ジョセフを見てよくやったと褒めることもなく、無茶をしてと叱るでもなく、僅かに上下する胸だけが彼らが生きていると教えてくれた。 そんな二人が今こうして自分の前に立って、笑っていてくれる。些細な喧嘩をして、止められて…そんな下らなくも幸せな時を与えてくれている。それだけでジョセフにとっては何物にも代えられない贈り物だと、先程のような笑みを見るたびに知らしめられた。 「随分と可愛いことを言言うじゃないか、え?」 「シーザー。ジョセフだって意を決して言ってくれたんだ。茶化すな」 「…名前ちゃん、そう言われると余計恥かしいんだけど」 「あ、ごめん」 くすくすと肩を揺らした名前がジョセフの手を取る。ひんやりとした感触に少し顔に上がった熱も取れた気がした。 「ジョセフ」 「んー?」 「生まれてきてくれてありがとう」 唐突な言葉に名前の顔を見る。名前は楽しそうに嬉しそうに笑っていた。 「生まれてきて、沢山いいことも辛いこともあったろう。あの戦いじゃあいつ死んだっておかしくなかった。私も、シーザーもジョセフも。それでも皆生き延びて君の20歳の誕生日を迎えて、それをこうして祝える。それはとても尊くて幸せなことだ。そんな幸せをくれてありがとうジョセフ」 ジョセフは一つ瞬きをして、名前とシーザーの顔を交互に見る。二人とも本当に幸せそうに笑っているから、ジョセフも同じように笑ってしまう。 「気障なのはシーザーちゃんだけじゃなかったのねん」 「言ってろスカタン」 「誰がスカタンだっての!…仕方ねえなあ。二人にゃこれから先も俺の誕生日祝わせてやるよ!」 「それは嬉しいねえ」 「さてと。そろそろ買い出しに行くか。…本当に何もいらねえんだな?」 「うっ、そう言われるとなんか惜しくなってくるぜ…」 「時間切れだね、残念」 「そりゃないぜ名前ちゃーん!」 ははっと笑って歩き出す二人の後姿を見送る。差し込んだ日差しにまた名前の義手とシーザーの義足がキラリと光った。 生きていてくれるだけで 幸せと思えるのは愛ゆえか →おまけ |