キャラ誕! | ナノ






粗方仕事を終えてようやく腰を下ろす。紅茶の一つも入れるべきなのだが、その役目は名前に取られてしまった。ポットとカップにお湯を注ぐ名前を見ながら今日は何故こんな事をやり出したのかと考えを巡らせる。
何かバレたら不味い事をしでかして機嫌を取ろうとしているのか。だとすれば館のどこかが破壊されたことになる。しかし、真っ直ぐここに来たとなればそれが行われたのは早くとも三日前に訪れた時だろう。だとしたらもう既に自分が気付いている筈だ。なのでこれは違う。

純粋に手伝いに来てくれたと言うことだろうか。普段から館に訪れる他の人達よりずっと私に気を使っているのだし、その可能性が一番高い。だが、だとしても主の所に一報入れている筈だ。彼が名前が来るの事を知らないのを嫌うのは彼女も承知の筈である。しかし、顔も見てないとなれば何か考えがあるのかもしれない。

主に聞かれてはならない相談事、だろうか。…例えば恋の悩みとか。そこまで考えて自分は何を考えているのかと脱力する。馬鹿馬鹿しい。大体名前はそんなことにうつつを抜かすほどの時間はないだろう。暇さえあればここを訪れているのだから。
…だが、もしそうだったとしたらどうする?主に報告するかしないかは勿論、相手がどこの馬の骨ともつかないような奴だったら?僭越ながら妹の様に可愛がっている名前の相手だ。くだらない奴ならば許せる筈もない。せめて私と魂を賭けても勝てる程度の実力は持っていなくては話にならない。そうでなければ即コレクション行きだ。まあ、その場合一生箱の外にも出さないだろうが。


「おーい、テレンスさーん?」

「っ!ああ、はい。どうしました?」

「お茶入りましたけど…。なにか悩みごとでも?」

「いえ、そんなことはありませんよ」


いつの間にか思考に没頭していたらしい。何度か声をかけたらしい名前が心配そうな顔をしている。
あまりにも馬鹿馬鹿しい失態に舌打ちしたいのを堪えつつ、名前に椅子に座る様に勧める。目の前に置かれた紅茶を呑もうと手を伸ばすと、止められた。


「ちょっと待って下さい」

「はい、どうかしましたか?」

「えっと…」


少しばかり恥ずかしそうに名前が笑う。…まさか先程危惧していたような話をされるのかと背筋を伸ばした自分の前に、可愛らしく飾り付けられたケーキが現れた。


「…これ、は?」

「誕生日ケーキです。テレンスさん今日誕生日でしょう?」


手作りだから不格好なんですけど、とすまなそうな顔をする名前に目を丸くする。ケーキを見れば確かに上のプレートにも自分の名前が書いてあった。


「…よく、知っていましたね」

「ダニエルさんから聞いたんです」

「兄さんから…」

「ええ、ダニエルさんも夜には帰ってくるんでしょう?」

「ああ、はい」


生返事をしながらよくもまあ、あの兄が私の誕生日を覚えていたものだと思う。毎年互いに祝った事もないのに。…ああ、いや、今日は日付が変わる前に帰ると連絡があった。珍しい事もあるものだと思っていたが、名前の言葉からするとこの為なのだろうか。


「色々考えたんですけど、何がいいか思い浮かばなくて」

「それで手伝い、ですか」

「ええ、たまには楽をして欲しくて」


ケーキを切り分けながら少しは役立てたといいんですけど、と笑う名前。なんとまあ、可愛らしい事を考えたものだ。


「…とても嬉しいですよ、ありがとうございます」

「そう言ってもらえて、私も嬉しいです」


生まれてきてくれてありがとうございます、なんて背筋が痒くなるような言葉だ。しかし、胸がじんわりと暖かく感じる以上、それは照れ隠しでしかなく。
赤くなる頬を隠す様に、手渡されたフォークでケーキを食べるしかなかった。



Happy Birthday!Terence!
皿に乗せられたプレートの文字に、顔が緩む。
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