Wonderful Days | ナノ






目を開くと私はいつの間にかベッドに寝ていた。ふらふらとする頭を抱えながら体を起こす。ぼうっとしていると扉がノックされた。


「まだ寝てんのかー?」


…誰だ今の声。
承太郎やましてお母さんの声じゃない。若い男の声だ。
用心のためスタンド出そうとするが出てこない。そんな異常事態に慌てている間に扉が開かれた。とりあえず手近にあったクッションを投げつけようと振りかぶって、私は固まった。


「…じょ、すけ?」

「ん?」


人懐っこい顔の仗助が私の格好に目を丸くしていると、その後ろからこちらを覗いてたいくつかの顔に思わず思い切り扉を閉めた。向こうから仗助の慌てた声が聞こえたがそんなこと知ったこっちゃない。


「な、んで…」


扉の向こうに見えた顔は、紛れもなくジョナサン・ジョースターと若い頃のジョセフおじいちゃんだ。

…こうなれば選択肢は4つ。
@夢(個人的にはこれが一番望ましいが残念ながら抓った頬はジンジンと痛む)
Aスタンド攻撃(意識を失う前の声と言いこれが有力か?)
B世界が巡った(だとしたらDIOとプッチは嫌ってほどド突きまわす)
C…トリップ(いやいやいや、またトリップとか勘弁してください)

頭を抱えながらうんうんと唸っているとベッドの上に一枚の紙が乗っていた。…さっき起きた時こんなの置いてあったけ?
警戒しながら持ってみてもなにも異常は見受けられない。畳まれた紙には"Wonderful Days"と記されていた。
…素晴らしき日々?
一体何かだろうか。首を捻りつつ紙を開いた。


『ようこそ、再構築された世界へ。

ここは君の夢ではなく、ましてやスタンドによるものではない。
新しく、生み出された世界だ。
今君はこの唐突な状況についていけずに右往左往しているだろう。しかし、だからといってどうとなるものでもない。君のすることはただ一つ。

"この素晴らしき世界を日々を謳歌することだけ"』


それだけ書かれた紙を一度閉じる。…さて、引き裂くか燃やすかどちらがいいだろうか。
なんだこいつ。何様だっつーの!イライラする気持ちをなんとか抑えながらもう一度読み返す。この記述を丸ごと信じていいものか悩み所だ。

このリアルな感覚と言い夢ではないのは確かである。もし世界が一巡したとしても仗助と私が一緒に暮らしていた事実はない。というかそもそも年齢が違う。しかし窓に映る私は見慣れた姿で知らぬ間に仗助が高校生になって私が老いていたということもない。つまり世界が一巡したわけではない。
スタンド攻撃と言うには何か攻撃を受けるわけでもない。…精神的疲労は溜まりっぱなしだが。あるとすれば精神だけがここに捕まって本当の肉体はあのテレビの前に横たわって衰弱死待ち、とかだろうか。でもそれならいつかは承太郎たちが気付くだろう。それならそれで問題ない。
そしてトリップ…この異変を起こしたであろう誰かさんの言葉を信じるなら構築されなおした世界、とやらに来たということなら私に打つ手はない。ジョジョの世界に来た時から私は私なりに足掻く事しか出来なかったように、一生懸命生きていくしかないのだろう。
そこまで考えて深くため息をつく。…結局考えても答えは出ないのだ。どれもこれも仮定の話である。


「謳歌すること、ね」


最後の一文を思い返して肩を落とす。気に食わないが今ある唯一の選択肢で一番建設的だろう。うじうじして腐るよりはマシだ。
よし、と意気込んだ瞬間部屋のドアが無理やりこじ開けられた。ぽかんとそちらを見ると青い顔をした仗助と不機嫌そうな承太郎が居た。


「飯だぞ」

「…うん、ごめん」


その迫力にぎこちなく謝罪をする。ため息をついた承太郎が背中を向け、仗助は扉を閉めてその後を追ったようだ。
…承太郎も一緒に住んでるのか。ホッとしたような、どういう組み合わせなのか不思議なような思いになる。その時壁に掛けられた制服に気付いた。それは今まで来ていたブレザーとは違いセーラーである。一回着て見たかったんだよなセーラー…。

そんな呑気なことを思いつつ一歩踏み出したところではたと気づく。…あの本どこに行った?手には持っていないし床にも落ちていない。何とも言えない気持ちになりながら、とりあえず私は部屋を出た。


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