Wonderful Days | ナノ






どたどたと足音が近づいてきて、勢いよく扉が開け放たれる。隙間から慌てた顔のジョナサンさんがいたが、それも良く分からない。だって、私の目は彼にくぎ付けだったから。

「ナマエ!」
「…お、兄ちゃん」

ふっと目を細めた彼の顔に穴が開くんじゃないかってくらい、凝視してしまう。だけれどそこに居るのは変わらず私にとってお兄ちゃんと呼ぶ唯一の存在が、ディアボロがいた。

「…お前が私をそう呼ぶのは久しぶりだな」

からかう様に笑うディアボロに、言いたいことは沢山あった。けれどDIOの姿を見た時のように、視界が滲んで、言葉が詰まって何も言えない。とりあえず私は勢いよく彼に抱き着いた。

「久し、ぶり…!」
「ああ。…そんなに感極まるほどの事か?」

苦笑しながら私の涙を拭ってからディアボロが私を抱きしめ返した。誰もが声を失っているのか、静かな部屋に疑問の声が上がった。

「誰?っつーか名前が喋ってるのってどこの言葉っすか」
「イタリア語ですね。誰、かまでは分かりませんが名前さんはお兄ちゃん、と呼んでいるみたいですけど」
「…え?」
「は?」
「なんだと…?」

後ろで、なんだか黒いものを滲ませた声が三つ上がった気がした。

とりあえず落ち着いた私がディアボロを椅子に座らせる。

「…名前、そいつは誰だ」

じろりと睨み付ける承太郎に冷や汗をかきつつ、イタリアに住んでいた頃兄の様に接してくれた人物だと説明する。私の経歴は変わってないし、さっきのディアボロのセリフからも関係性に大きな違いはないはずだ。

「初めまして、ディアボロと申します」
「…え、日本語喋れんの?」
「一応な。仕事に必要だから勉強した」
「仕事?」
「ああ」
「…まさか、こんな所で会えるとは思いませんでしたね…パッショーネ社長」

ぱちぱちと瞬きをする私の後ろから、DIOの慇懃無礼な声がした。

「…ああ、私もこんな所で合うとは思っていなかったよ、ブランドー君」
「DIO、で結構ですよ。…貴様を日本から追い出す男の名だ。覚えておけ」
「…それはこちらのセリフだな。せいぜい情けない結果に終わる前に潔く引くことだ」

バチバチと音がしそうなほど険悪な雰囲気を醸し出す二人を何度も見る。…え、どういうことですかこれ。

「えっと…DIO?どういうことなの?」
「どういうこともなにも…そいつは先程言っていたイタリアのライバル社…パッショーネの社長だ」
「…え?そうなの?」
「…お前、私が会社を興したと言ったのを忘れたのか?」
「…あ、あはは…職種までは覚えてませんでした」

いや、本当は真っ当な会社やってるなんて初めて聞きましたけどね!私の中じゃお兄ちゃんはギャングのボスでしたよ!

「まったく…相変わらずだなお前は」

ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱すディアボロに笑い返していると、腕を引かれた。

「…名前がガキの時世話になったみたいだな」
「…君は?」
「空条承太郎…名前の兄だ。正式な、な」
「…ほう、それはそれは。名前は甘えたがりだから大変だろう?」
「ちょっ!そういうこと言うなし!しかもそれ小っちゃいときの話じゃん!」
「今もまだ小さいだろう」
「あのまんまイタリアに住んでたらもう酒もタバコもオッケーですし!」
「ここが日本で残念だな」

さらっと流すディアボロにムッとしていると、腕を掴む手に力が籠った。思わず承太郎を見上げると、怒った様な、悲しんでいるような何とも言えない目がこちらを見ていて、何も言えなくなった。

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