Wonderful Days | ナノ






とりあえず、少し落ち着いた空気にホッと息を吐く。

「…名前さんは前にボクと会ったこと覚えてませんか?」

ジョルノの質問に肩が強張る。…えーっと?どうやら会ったことがあるらしいが、当然私にはその記憶はない。なんせ私にとってこの世界は全く新しいものなのだから。
何も言わない私にジョルノはそれも仕方がありませんね、と苦笑した。

「会ったのはボクがまだ兄さんに引き取られたばかりの頃でしたから」
「…そう、だったっけ?」
「ええ。たった一度だけでしたが…ボクにとっては大事な思い出ですよ」

そう言って綺麗に微笑まれてしまってはなんとも心が痛んだ。

「私の事は覚えていたようだがな」
「そりゃてめえが何度もあってる上にインパクトがデケエからだろ」
「承太郎…」
「ふん…本当のことだろうが」
「…名前はDIOさんとかと会ったことあったのか?」

こそこそと聞いてくる仗助に何と答えるか迷っていると、ジョナサンさんがにこにこと間に入ってきた。

「うん。皆で姉さんに会いに来たことなんかもあったからね。DIOが会社を手伝うようになってから彼は中々来れなかったけど」
「はあ…でもオレとも会ったことないっすよね?」
「うーん…ほら、DIOあの性格だから。ジョセフといっつも喧嘩になっちゃうし仗助の教育に悪いって朋子さんに怒られちゃってねえ。赤ちゃんの頃になら会ったことあるんだけど」
「…流石にそれは覚えてねーわ」
「名前はDIOによく懐いてたよね。DIOも名前には優しかったし」
「…そう、ですね」

そう、だったのだろうか。でも、私の知っているDIOと、目の前のDIOの私を見る目は同じで。きっとこちらの世界で年を重ねても私はDIOが大好きだったのは変わりないんだろうな、と不思議と納得してしまった。

「僕らには今も敬語なのにDIOにはすんなり馴染んじゃってねえ…ちょっと寂しかったなあ」
「な、なんかすみません…」
「あ、いや!責めたわけじゃないんだよ!」

慌てて執成してくれたジョナサンさんの優しさに今は甘えておこう。と思ったその時。

「そうだよ!もうこれからは一緒に住む家族なんだしー?お兄ちゃんって呼んでくれていいんだぜ?」

ふざけた調子で割り込んできたジョセフさん。しかし、彼の溌剌とした笑顔とは逆に、私の心が凍りついた。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。私が後にも先にも、そう声に出して呼ぶのは、彼だけだ。
次から次へと訳の分からない事態になっていたから、そこまで気が回らなかった。…そう言えば、きっとお兄ちゃんは、ディアボロはムッとした顔をして拗ねるだろう。どうせ私なんて、なんて妙に卑屈なことを言いだして私を困らせるのだ。
…そんな彼は、どこかに居るのだろうか。

固まってしまった私にジョセフさんが慌てだす。

「って!まあさ!ゆっくりでいいんだけどさー」
「…え、ええ。そう、ですね」

その優しさを無駄にしたくなくて、ぎこちないなりに笑顔を作った。いくらか引き攣っていただろうが、ジョセフさんはそこに触れることなく笑い返してくれた。

「そう言えばさあ…」

そしてDIOの方をジョセフさんが振り向いたのと同時に、チャイムの音が鳴り響いた。一瞬の沈黙の後、ジョナサンさんが玄関に向かう。ジョセフさんは気を取り直してDIOに声をかけた。

「厄介なことってなんだよ。会社になんかあったのか?」
「…何か、と言えば何か、だな」
「ああ?はっきりしろよ?」
「…競合している会社がこちらと期を同じく日本に支社を出すことになった。どうやらオーナー自ら乗り込むらしい」
「…マジかよ」
「ああ。…だからジョルノを連れてきたのだ」

それはどういう意味だろうか。DIOの言葉を不思議に言思っているのと同時に、聞き覚えのある声が、言葉が飛び込んできた。

「…お兄ちゃん?」

…ああ、最近ではそんな風に呼んだことなんてないのに。思わず口から出てきたその言葉に、彼と過ごしていた時間の長さを、重さを思い知って。
驚いたようにジョルノが私を見ていたなんて、気づかなかった。

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