神隠しの少女 | ナノ






ターゲットを再度見た時は休憩を入れていた所だった。コーヒーを飲む家族の斜め後ろを陣取りながら注意深く観察する。ダンはスタンドと自分の感覚を同調させた。脳幹には予定通り大きな瘤が出来ている。
立ちあがったその時に破裂させればいい。そう考えながら茉莉香とくだらない話を続ける。

「これからずっとダン君って呼ぼうかな」
「ふざけるな」
「えー、いいじゃん。ダン君ダン君ダン君」
「連呼するな!」
「良いって言うまで続ける!」

胸を張ってわけのわからない宣言をする茉莉香に脱力しながら許可を出せば、わーいなんて馬鹿みたいな表情をする。その後ろで、ターゲットが立ちあがったのが見えた。
それに合わせて瘤を突き刺せば、溜めこまれた血液は行く手を得て溢れ出す。飲み込まれないようにラバーズを呼び戻したその時。がくりと男が倒れこむ。
ガシャンという音に注目が集まり、茉莉香も振り返った。倒れたターゲットの側は妻と子供が駆け寄る。何度問いかけても答えない夫に妻は涙ぐみ、その姿を見た子供も泣き出した。もう一度ラバーズを飛ばし確認すると、既に呼吸は止まっている。流れ出た血液の量は脳幹を十分に圧迫してくれたようだ。これならもう大丈夫だろう。慌てた店員が人を呼ぶまでに決着がつく。そんな事を考えながら腰を下ろしたダンの目に、泣き喚く家族をジッと見つめる茉莉香の姿が飛び込んできた。

そういえばこの子供は両親も祖父母も亡くしていたんだったか。いつだったかに聞いたことをぼんやりと思いだす。嫌な事でも思い出したか。そんな事を思いながらコーヒーを啜れば安っぽい粉の味がして、ダンは眉をしかめた。
いまだに視線を逸らさない茉莉香を窺えば、その顔には何も映し出されて居ない。全くの無表情だった。

「おい」
「ん?なに?」

声をかければ、笑顔で振り向く。その顔は先程の無表情が嘘だったかのようだ。何と言えばいいか分からずにダンは口ごもった。

「…もしかしてダン君気、使ってくれた?」

苦笑しながら訪ねてくる茉莉香から目を逸らす。これでは肯定してるのと同義だとダンは歯噛みした。

「ありがとね」

そう言って笑う茉莉香の顔には一切負の感情が見えない。しかしそれが演技かどうかダンには判断できなかった。

「上手く終わったみたいだね」
「…ああ」
「じゃあお土産買って帰ろうか」
「ここには、もう居たくないか」

何故そんな質問をしたのかダンにも分からなかった。ただ、気付いた時には声に出してしまっていた。茉莉香の目が丸くなるのを見て、眉間に更に力が籠った。

「別に、そんな事はないよ?」
「…そうか」

頷くダンが不満そうだったのか、茉莉香は困ったように笑いながら続ける。

「ダン君は私が親亡くしてるの知ってるから気を使ってくれてるんだろうけど…。別にあれを見てもどうとも思ってないよ?」

ならば、あの顔は何だったのか。そう思うが今度は口にしなかった。

「だって、私はあの人たちを知らないから。私の友達とかなら、泣いたし止めようとしただろうけど…。私と関係ない人の死なんてテレビの向こうだろうと目の前だろうとあんまり変わらないじゃない。ああ、可哀そうだな。そう思って、5分もしたら綺麗さっぱり忘れて他の事を考える。それはきっと私が手を下したとしても変わらない。だって、DIOにとって邪魔な存在なんでしょう?なら、むしろ清々したとすら思っちゃうかも」

微かに笑いながらそう言いきった茉莉香に今度はこちらが目を丸くする番だった。

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