神隠しの少女 | ナノ






スティーリー・ダンの場合

その日ダンは終えた仕事を報告する為に館を訪れた。彼のスタンドは小さく、人知れずに相手を絶命させられる。それを知っている館の主は彼に良く仕事を頼んだ。そのこと自体にダンはなんの不満もない。金払いは極上だし、無茶な注文がつくこともない。そう、思っていた。
執事に報告をすると、そのまま一つ仕事を任された。忙しないことこの上ないが、それはまだいい。しかし、その仕事には驚くべきオプションが付いていた。

「…遊園地?」
「ええ」

大仰に頷く執事の頭を殴りたくなるのを抑えながら、ダンは依頼書に目を通す。ターゲットはこの間ここに殺し屋とやらを派遣したらしい壮年の男だ。この男の父がDIOに心酔し、会社の金やら何やら見境なしに貢いでいるらしい。それは始末したくもなるな、と思いながら読み進める。普段は警戒心が強く、SPの様なものを付けているらしい。確かにこれは面倒くさいがダンのスタンドであれば問題はない。なのに何故そんな目立つ場所で仕事をしなくてはならないのか。

「見せしめ、というやつですよ」

こちらの心を読んだかのようなタイミングで合いの手を入れてくる執事を一睨みするが、対して気にもしない素振りなのがダンの苛立ちを加速させた。
…見せしめというのは良く分かる。この前の侵入者はラバーソールが始末したらしい。この業界は広い様で狭い。情報は素早く回るし、失敗となればどこからか依頼人の名前も出てくることがある。間髪入れずにこの男を殺せば、依頼を受けるものはかなり減るだろう。そしてそれは、派手であれば派手であるほどいい。

「…ならもっと派手にやれるやつの方が適任だろう」
「想像の余地、というものが必要なんですよ。殺されたのかそうでないのかも分からない。だけれどこのタイミングではそうとしか考えられないが…という想像のね」

確かに衆人環視の中、証拠もなく死んだとなれば色々と想像を働かせるものも多い。疑心暗鬼が余計に足を遠ざける、ということか。

「それは分かった。…だが何故こいつと行かねばならないんだ!」

指を差された先で呑気に紅茶を啜っていた茉莉香がキョトンと間抜けな顔をしていた。

「…茉莉香となら兄妹として見られるでしょう。まあ、あなた一人で遊園地に行きたいというならそれは構いませんが」

執事の言葉にダンは一瞬詰まる。確かにダンの年頃の男が一人遊園地に居るというのは目立つ。それも悪い意味で。その状況はダンにとって望ましくない。

「それに、茉莉香が居なかったらどうやってそこまで行って見つけ出すんですか」

更に言い募られますます反論の余地がなくなる。いくらダンのスタンドの射程距離が長いとはいえこの遊園地に届くほどではないし、何千何万の人間の中からターゲットを見つけ出せるとは考えにくい。

「分かったら行って下さい。茉莉香とはぐれないで下さいよ」

シッシッと追い払うかの如く手を振る執事に殴りかかりそうになるが、それは茉莉香が袖を引く事で留められた。

「ターゲットの写真とか見せてー」

能天気な喋り方にダンはがっくりとうなだれる。仕事の上に子どものお守りなんて真っ平ごめんだというのに、逃れる隙はなさそうだった。
渋々書類を渡すとパラパラと捲って返してくる。かと思えば、少し待っててと言い残して部屋を出ていった。

執事とダンの間に沈黙が横たわって数分。帰ってきた茉莉香が意気揚々とダンの手を掴んだ。


「じゃあダンさん行きましょー」
「…ああ」
「あ、ダンさんじゃ兄妹っぽくないよね。…ダン君にしよう」

その言葉に文句を言おうとするが、目の前に現れたスタンドによって叶わなかった。

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