神隠しの少女 | ナノ






「お疲れ様」

思いもしない言葉を掛けられてラバーソールが顔を上げれば、そこには普段となんら変わらない茉莉香が居た。その顔に嫌悪の色はなく、むしろ労う様な微笑みさえ浮かんでいた。呆気にとられるラバーソールを気に掛けるでもなく、茉莉香は未だ食事中の黄の節制を興味深げに眺めている。

「ラバーソールのスタンドって…スライムみたいだね」
「…は?」
「だって、むにゅむにゅって感じに動いてるし。色も蛍光チックな黄色だし」

つついてもいい?なんて笑いながら呑気な事を言う茉莉香にラバーソールは何故か無性に腹が立った。
突いてもいいってなんだ。どう見ても触れてはいけないようなものだろう。大体なんでそんな平気そうなんだ。どうして、そんな風に笑ってるんだ。こんなものを見たら怖がって、嫌がって泣き喚くものじゃないのか。
つい先程まで、嫌わないでほしいと思っていたのに不思議なものだ。今はこうも変わりなく接してくる茉莉香に不満ばかり出てくる。一体自分はどうしてほしいのか。そんな簡単な事が分からなくて、ラバーソールの顔がくしゃりと歪む。まるでこれでは自分の方が泣きそうな子供の様だ。

何も言ってこないラバーソールを訝しく思ったのか、顔を上げた茉莉香はラバーソールの顔を見て目を見張った。そして心配そうな顔になる。

「どうしたの?どっか怪我したの?」
「してねーよ…!」

あたふたとする茉莉香を見て涙腺が刺激される。ジワリと浮かんできたものを見られたくなくてしゃがみ込めば、茉莉香の手が彼の頭に乗せられた。その感触に余計涙が出てきて、ラバーソールは更に縮こまる。

「だ、大丈夫…?」
「大丈夫じゃねーし。大体お前のせいだし」
「えええ…今来たばっかりなのに何をしたって言うのさ…」
「うっせー」

それっきり何も言わなくなったラバーソールの頭を茉莉香も撫で続けた。それが妙に心地よくて、少しづつ落ち着いてくる。
漸く涙も止まり茉莉香を見ればホッとしたように笑う。そのせいでまた涙が浮かびそうだったが、何とか押しとどめた。

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