神隠しの少女 | ナノ




01

"彼女"と初めて会ったのは8歳の時だった。
そして"彼"に出会ったのもその時だった。

1985年―春 イタリア 

その夜、おじいちゃん達は島の会合に顔を出していた。
私は一人部屋でテレビを眺めていた。テレビは世界の情景を映し出していて。様々な地が移される中、ある一つの場所に妙に心惹かれた。

それはエジプトのカイロという場所だった。
イタリアと同じように古い町並みだが、イタリアとは全く違う雰囲気。どこか神秘的で不思議な力が満ちているように見えた。それはきっと先ほどまで心躍らせていた冒険活劇の世界によく似ていたからだろう。
…まあ、某悪の帝王が居る設定の町だから、というのも否定できないけれど。

ちらりと映し出された建物はその某悪の帝王の館に似ていて、見晴らしの良さそうな塔が有った。そこに登ってカイロの街並みを眺めてみたい。そう思った瞬間、肩に手が掛けられた。
驚いて振り返ろうとするがそれよりも早く視界が闇に包まれた。


一瞬後、目の前にはさっきまでテレビの中でしかなかった光景が広がっていた。
丸みを帯びた屋根が連なり、小さな明かりが灯っている。微かな人のざわめきが聞こえ、吹く風の冷たさがこれが現実だということを教えてくれた。
驚くよりも先に目の間の光景に茫然と見入ってしまう。
これは一体どういうことなのだろうか?


「これは随分と可愛らしいお客人だな」


その声に肩が大きく跳ねる。
そうだ、ここが何処かは分からないが誰かが住んでいてもおかしくはない。むしろ当たり前のことだろう。テレビで市街地だと言っていたではないか。
それを理解すると同時に自分がいったいどうなったのかと言う混乱と不安が襲ってきて、体が硬直する。

今私はどういう状況なのか。
ここは本当にカイロなのか。またおじいちゃん達の待つ家へと帰れるのか。その可能性は0に等しいのではないか。なんせ自分でも何でここに居るのか分からないのだ。一体どう考えたら私がエジプトらしきところに居るなんて分かるというのだろう?
混乱は頂点を極め、涙が滲むのも止められない。ああ、でもせめて声の持ち主の方へ振り返らなければ。そう思った時。

「泣くな」

視界が一気に高くなり思わず顔を上げれば、そこには彫刻のように美しい人が居た。
日の光を集めたかのような黄金に輝く髪。透き通るのではないかと思うほど白い肌は月明かりの中、彼自身が光を発しているのではないかとさえ思った。
彫の深い血の様に赤い瞳が面白そうにこちらを見ていて、その中に映る私は目を見開いて驚愕をこれっぽちも隠そうとはしていない。いや、隠せないのだ。
なぜなら、目の前に居るこの美しい男は――悪の帝王DIOその人なのだから。

「ふむ、泣きやんだな」

驚きのあまり涙が止まったのを見て満足そうに頷く。
どうする、どうするんだ私!!!!
いきなり現れた小娘がDIOについて色々と知っている→なんだこいつとりあえず肉の芽埋めるか…。にならない保証なんて全くないぞ!

「あ、あの…」
「なんだ」
「ここは、どこ、ですか?」

とりあえず私はしらばっくれることにした。
私がそう言うとDIOは僅かに目を見開いた後、くつくつと笑い出す。

「おかしなことを言う。お前がいきなり現れたのではないか」
「いや、あの…」

そんなにもおかしそうにされると何だか身の置き場がない。
困ったように視線をうろつかせていると、漸く笑うのをやめてくれた。

「ここはエジプトのカイロと言うところだ」
「や、やっぱり…」

やはりテレビに映ったカイロその場所なのだ。いや、DIOが居ることで確定と言えば確定だったけどもね!?
私は一体どうしたというんだろう。行きたいと思っただけでその場に行けるのなら旅行会社なんて軒並み倒産だ!
全くこの超常現象はどういうこと…超常、現象?もしかして、いや、まさか…スタ、ンド?

「さて、お前は一体どうやってここまで来たのだ?」
「えっと…」

どう言えばいいのだろう。私がスタンドのことを知っているのは余りにもおかしい。
と言って、テレビで見て行ってみたいなーと思ったら来てしまったとでも言えばスタンドの仕業だとバレルだろう。普通では絶対にあり得ないことなんだから。って、あれ、これって詰みじゃないか。

「…こういったことは初めてか」

頭の中がめまぐるしく動いている中DIOの言葉が耳から飛び込んでくる。くそういい声してますね!ああ、そんな現実逃避より質問に答えなければ。
こういった事とはいきなり違う場所に移動することか。それなら初めてだ。とういうより経験したくさえなかった。

「はい…」
「ふむ」

DIOは一度頷くと机の上に置いてあった呼び鈴を鳴らし、私を椅子に座らせてくれた。あれ、ジェントルだ。
少し経つとノックの音が響き一人の男性が入ってきた。
その男はヴァニラ・アイスだった。…マジでブルマだ。目の保養と言うか目に毒だというか本気で悩むなアレ。そんな馬鹿げたことを考えている内に話が終わったらしい。

「今から一人老婆が来る。そいつの質問に答えろ」

老婆…エンヤ婆だろうか。まあ、とりあえず来れば分かるしと頷いておく。帰り方はもちろんどう来たかも分からないのだ。機嫌を損ねないようにしておくべきだろう。

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