神隠しの少女 | ナノ






ラバーソールの場合

薄暗い廊下にぐちょぐちょと粘着質な濡れた音が響き渡っていた。
ラバーソールの足元では、音の発生源である自身のスタンド―"黄の節制"が侵入者であったモノをせっせと溶かし、養分として吸収している。ラバーソールは"食事"が終わるまで何もすることがなく、ぼーっと蠢く塊を眺めていた。

何か、考え事をしていたわけでもない。本当に呆けている状態だった。しかし、彼もそれなりに長く暗い世界を渡り歩いてきたという自負が有る。誰か近づけば気付ける―そう考えていた。だから、落とした視界の端に表れた靴に酷く驚いた。

驚愕のあまり一瞬固まった自分を責めながらも、ラバーソールはその靴がこの館にたびたび訪れる少女、茉莉香のものだと気付く。そうなれば、今度は違う意味で動くことが出来なくなった。

茉莉香は普通の、女の子だ。少なくともラバーソールはそう思っていた。…こんな人を殺したり騙したり、人を人とも思わぬ所業を繰り返している人間達に懐いているという点を除けば。しかし言葉では分かっていると言っていても、実際にその現場を目撃すればそれまでの様に仲良くは出来ないだろう。どれだけ怖いもの知らずだとしても、受け入れられない。そんな風に彼は考えていた。

特に自分のスタンドは今足元にある肉塊の様に醜悪、と言える容貌にしてしまう。ラバーソールにとっては、何ら恥じる事のない誇れる能力である。だが、傍から見たらどれほど気味の悪いものであるかという事も彼は理解していた。
ラバーソールはこれまでその事に関して深く考えた事はなかった。他人にどう思われようと知った事ではない。そんな考えが根底にあった。しかし、今はどうした事か。時たま遊び、喋る程度の少女にどう思われたか、どんな顔でこちらを見ているのか。きっと、恐怖と嫌悪が張り付いているはずだ。そんな風に思ったら、確認するのが恐ろしくて顔も上げられない。


重たい沈黙が続く中、動いたのは茉莉香の方だった。

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