神隠しの少女 | ナノ






とりあえずの顔合わせを終えると、なんと貞夫パパはイギリスに行ってくると去って行きました。次の公演が近いらしい。驚きすぎて、忙しい中手間取らせた申し訳なさを感じるより、…ああ、だから妙に身軽だったんだ、と変な納得をしてしまった。
うん、まあまた帰って来た時にでも親交を深めさせてもらおう…。ホリィさんの反応を見るに中々帰ってこないみたいだけど。

「ふむ、ではわしも帰るか」
「へ!?」

ジョセフおじいちゃんの言葉に心臓が跳ねる。え、どういうことですかノンノ!!!
私の驚いた顔を見て少し困ったように眉をしかめるジョセフおじいちゃん。

「いや、仕事があって向こうに帰らにゃいけなくてなぁ」
「そ、そっか…」

そうだよね、冷静に考えたら一週間仕事ほったらかしだもんね…。

「まあ一通り片付けたらまた遊びに来るから、な?」
「…うん」
「承太郎、ホリィと茉莉香のこと頼んだぞ」
「分かってるって」
「じゃあなホリィ。身体には気をつけるんじゃぞ」
「パパも気をつけてね!」

ホリィさんと別れのキスをして、私を宥めるように一撫でするとジョセフおじいちゃんも踵を返して行ってしまった。
…行動が早いというかなんというか。っていうか、いきなりホリィさんと承太郎と三人暮らし?

ちらりとホリィさんを見れば、やっぱり嬉しそうに微笑まれて。
…ライフカードってどこに売ってますか―。

とにかく空港に居る意味もないのでタクシーで空条家に向かう。車中では自己紹介や向こうでの生活についてホリィさんと喋っていた。

助手席に座る承太郎は相槌くらいしかしてくれなかった。うん、そりゃ反抗期とは言えまだまだお母さんに甘えたい時期によそ者が来ても嫌だよね!犬や猫だって嫌がるしね!でも慣れたら仲良くできるよね…!?
そんな考えでどうにか乗り切った。…だってそう思わないと泣きたいくらいかなしいだろうが…!

「到着!ここがこれから茉莉香ちゃんが暮らすお家よ」
「…広い、ですね」

純日本家屋と言った空条家は大きい。手入れの行き届いた庭に、太陽の光を反射する縁側。…昼寝したい。
家を見上げている間に承太郎はさっさと荷物を持って入って行ってしまった。…泣かないぞ!

「その分お手入れが大変だけどね」
「手伝えることが有ったら言ってください」

そう言った私にホリィさんの手が触れる。小さく肩が跳ねてしまったのが心苦しい。

「…ねえ、茉莉香ちゃん?」
「なんですか?」
「なんでパパはおじいちゃんって呼んでるのに私は"ホリィさん"なの!?貞夫さんだって貞夫パパって言ってたのに!」

ホリィさんが拗ねたように口を尖らせる。その仕草がしっくりきていてまるで女学生の様だ。

「私は茉莉香ちゃんのお母さんになったのよ?そりゃまだまだ慣れないかもしれないけど…。そんな他人行儀に呼ばれたり話されたら寂しいわ…」

顔を伏せたホリィさんは本当に悲しげな顔をしていて。良心にグサグサと矢が突き刺さるような錯覚に陥る。

「ご、ごめんなさい…」

あ、また敬語になってしまった。案の定ホリィさんの目が潤み始める。嗚呼…罪悪感がひしひしと…!
どうしたらいいか分からずに慌てふためいていると。

「急に言われてもそいつも困るだろ」

玄関から顔を出した承太郎が呆れたような顔でこちらを見ていた。

「んなことこれから慣れてきゃいい。かあさんは急過ぎんだよ」
「でも…」
「でもじゃねえよ。ほら、部屋案内すっから」

承太郎のつれない言葉にますますしょぼーんとしたホリィさんを尻目に手招きをされる。どうしたらいいか迷ったが、ホリィさんを促して家へと入った。

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