神隠しの少女 | ナノ






ついに、ついに日本へとやってきました!
…ん?帰って来たの方が正しいのか?昔の生活を含めれば20年以上はこちらで過ごした筈なのだけれど、やはり帰って来たというには違和感はぬぐえない。
まあ、周りを見渡せば見慣れた言語ばかり、というはありがたい。イタリアに行った頃は何が何だか分からなかった。良く考えたらあれだけ外国語に苦しめられていたのに、存外すんなりと適応出来たのは脳味噌が柔らかかったなのだろうか。英語やらは幼いうちに慣れ親しませとけという風潮も案外馬鹿にしたものではないね。

「じゃあ、行こうか」

きょろきょろとしていると、いつの間にか荷物を持ってきてくれた貞夫パパに背中を押される。…ちょっと恥ずかしかった。

ジョセフおじいちゃんと貞夫パパに挟まれながら自動ドアを抜けると同時に、貞夫パパに何かがぶつかる。いや、何かではなく"人"だ。

「あなた!お帰りなさい!」
「ただいま、ホリィ」
「これホリィ!茉莉香が居るのにはしたない事をするんじゃあない!第一わしの前でそいつに抱きつくな!」
「パパ!会いたかったわ!」

ジョセフおじいちゃんのお小言も気にせずにハグする女性…ホリィさんは漫画で見た通り、見ているだけで朗らかな気持ちになれるような人だった。貞夫パパ女の人見る目あるね。
なんて考えながら傍観している私の方にぐるりと顔を向けると、ホリィさんの目が一段と輝く。それに思わず一歩引きそうになるのを何とか堪えた。…ジョセフおじいちゃんの時も思ったけれど、ジョースター家の人の真っ直ぐな瞳はどうにも、居心地がいいような悪いような複雑な気分にさせてくれる。

「あなたが茉莉香ちゃん!?」
「は、はい。よろしくお願いします…」

すさまじい勢いで手を取られて口元が引きつる。こんな一気に踏み込んでくる人と関わるのは久しぶりだった。

「あら、日本語上手なのね!」
「祖父が家では日本語で話していたもので…」

にこにこと向けられる笑顔から目を背けたくなる。すいません、ほんの一日二日前まで貴女が死んでも仕方ないとか考えてたんです。そんな純粋に好意を含んだ目で見ないでくださいぃぃぃ…!
なんだか自分の汚さが浮き彫りにされそうで、結局視線を逸らしてしまう。そして、目を向けた先には、"彼"が居た。

「…承、太郎?」

原作で見た時ほど背も高くないし、筋肉だってついてない。でも、何もかも見透かしているような美しいグリーンの瞳だけは、間違えようがなかった。
ぽつりとつぶやいた名前をホリィさんが掬いあげる。

「あら、承太郎の事も知っているの?」
「ジョセフ、おじいちゃんに写真を見せて、貰いました」

ホリィさんの問いかけに応えながらも、視線は彼から外せない。その、緑の目が私の思考を支配する。
ああ、この子と彼は、確かに似ている。確かに、似ているのだ。凪いだ海の様な穏やかなグリーンの瞳と、冷え切った血の様な彼の瞳は全く違うのに、何故か被って仕方ない。
ジワリと涙が滲みそうになる。それは、彼らはこんなにも似ているのに、絶対的な隔絶を感じたからか、それとも。
――私と承太郎もきっと重ならない
そんな確信めいたものを感じたからかは、判断が出来なかった。

(出来る事ならば、この直感が外れる事を願って止まない)

「これ承太郎、こっちにこんか!」

手招きをするジョセフおじいちゃんの声で固まっていた身体が動き出す。顔を逸らすが、こちらに近づいてくる足音を耳は敏感に拾っていた。

「…久しぶりおじいちゃん」

低い、良く通る声。少しぶっきらぼうだけれど、柔らかな言葉に少し驚く。ああ、いやでも彼はまだ14歳なのだ。私の知っている"原作の空条承太郎"とは違って、生きて呼吸をして、自分の意志を持った一人の少年。そんな当たり前のことを今更実感する。分かっている気になっていたけれど、それは本当にそんな気になっていただけなんだ。

…私は何をこんなにも身構えているのだろうか。承太郎とDIOが似ていると思ったのも、私と違うと思ったのも。原作の先入観があったからじゃないか?大体DIOと初めて会った時も怖いとか無理とか思ったけど今はどうだ。あのひねくれた吸血鬼に比べれば、承太郎はどれだけマシなんだ。
もう私は"読者"じゃない。実際に彼らに触れて関わって知っていく。だってお互いここで"生きてる"んだから。

なら、私はこの人たちの孫として、娘として、妹として。真摯に向かい合わなきゃいけないんだ。

そう思って顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、それはもう攻撃力満載の美少年でした。
まだ少年らしい柔らかさを帯びた頬。キュッと結ばれた唇。少し固そうだけれど手触りのよさそうな黒髪。私と目が合って少し狼狽える様に揺れる緑の瞳は光を反射していて。

こんな美少年が実在してるなんて…!驚くべきジョジョワールド…!!!

なんかもう、冷静になったら周りの顔面偏差値の高さにここに居るのが恥ずかしくなってきました…。
おかしいな、私も結構可愛らしい容姿になれたって喜んでたんだけどなー…。レベルが違いすぎてびっくらこいたわ…。

なんかちょっと違う意味で涙が滲みそうになりました。

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