神隠しの少女 | ナノ






「さて、準備は良いな!」
「いえっさ―」

にこにこと元気なジョセフおじいちゃんに対し棒読みで返す私を見ながら貞夫パパ(こう呼ぶことが決まりました)が苦笑している。それに対しジョセフおじいちゃんが突っかかっている。…うるさい舅は嫌われるよ?
そんな二人を横目に荷物を預けて、見送りに来てくれた人に頭を下げる。学校の友達が涙ぐみながら別れを告げてくれた。寂しいけどこうして泣いてもらえるってなんか嬉しいね。それでもそろそろ切り上げようかと思った時ディアボロに手招きされた。
誘われるままに人の輪から離れると、ディアボロが酷く真剣な顔になる。

「お前に、言っておくことがある」
「…なに?」
「あの事件の時、俺はお前の為になら他の誰かを切り捨てると言ったな」
「うん。…覚えてるよ」

私の、覚悟を決めさせてくれた大切な思い出だ。

「それは、これから絶対に変わらない。…何かあったらちゃんと頼れよ」
「…ありがと。ディアボロも、たまには頼ってね」
「マリカに頼れる所があるか?」
「ひっどいなー」

二人で顔を見合わせて笑う。次会えるのは何時だろうか。近い未来かもしれないし、長い長い時間が必要になるのかも知れない。でも、また必ず会えると信じているから。

「…じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」

手を打ち合わせて、互いに背を向けた。格好つけ過ぎたかな、なんて苦笑して。けれど、彼の背中が微かに、しかし確実に震えているのを知っているのは私だけでいいんだろう。


皆に別れを告げて飛行機に乗り込む。…ファーストクラスって贅沢しすぎだと思うよブルジョワジーめ。
目を閉じると瞼の裏に色々なものが映し出される。それは愛しかったり棄ててしまいたかったり。ここでの思い出は沢山あり過ぎて困ってしまう。それでもきっと、忘れる事はない。

目を開いた先にはこちらに笑いかけるが美丈夫が二人。新しい思い出の一ページ目としては上出来すぎるな、と笑いが零れた。


(さようなら、また会う日まで。そしてこんにちは、これからどうぞよろしく)

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