神隠しの少女 | ナノ






「おはようございます」
「おお、おはよう。…随分と良い匂いがしとるな」
「今日はちょっと頑張ってみましたよー」

徹夜で考えていたおかげで時間が有り余ってしまった。なので、朝食は少々手の込んだものを作ってみた。机に並ぶ料理を見て瞳を輝かせるジョセフさんは可愛らしい。格好良くてお茶目で可愛いってある意味究極生命体だと思います。

どうぞ、と言えばがつがつと食べ始めるジョセフさんに思わず笑みがこぼれた。…そう言えばジョセフさんがこの家に来るまで、一人で食べるのがデフォルトになっていた事を思い出す。
この6日間どうするかということにばかり気を取られていて気付かなかったが、誰かと食べるご飯と言うのはやっぱり良いものだ。この幸せを見逃していたなんて大損こいた気分である。

「食べんのか?」

手を動かさない私を不思議に思ったのか、顔を上げたジョセフさんの髭にパン屑が付いていて吹き出してしまう。どれだけ慌てて食べてるんだこの人。パン屑に手を伸ばして取ってやれば、照れたように笑うジョセフさん。やっぱり可愛いなこの人、なんてしみじみと感じ入ってみたり。

「一人じゃない食事っていいな、と思ってたんです」
「…空条の家に行けば一人で食べる事なんてないぞ?」

そう言ってこちらの顔色を伺うジョセフさんの目は少し不安気だ。滞在中繰り返される誘いに色よい返事がなかった事が気に掛かっているんだろう。本当に優しい人だ。
ジョセフさんの目を見つめ返しながら、出来る限り柔らかな微笑みを浮かべてみる。

「そうですね、楽しみです」
「…そ、それは」
「これからよろしくお願いします…ジョセフおじいちゃん」

おじいちゃんだから敬語は変かな?と尋ねると机越しに抱擁される。

「敬語なんていらん!茉莉香はわしの孫なんじゃからな!」

少し涙を浮かべながら笑うジョセフさん…ジョセフおじいちゃんを見て、私は幸せだなぁとこちらまで泣きたくなってしまった。

「それで、日本に行く日にちだけど…」
「明日飛行機を手配しよう!」
「…は?」
「ん?」

私の反応に首をかしげるジョセフおじいちゃんだが、こちらが首を捻りたい。
だって荷物つめてないし、挨拶終わってないし、まだ書類関係とかもなにもしてないし。明日とか無理でしょう常識的に考えて。
何から説明すべきか整理しながら言葉を選ぶ。

「まだ荷物まとめてないし明日は無理なんじゃないかな…」
「荷物はわしの知り合いに頼んでおくから気にするな」
「いや、でも書類とか…」
「これにサインするだけで大丈夫じゃ!」

胸を張って差し出された紙に目を通す。…養子縁組の書類やらなんやらがどっさり。一体何処に隠し持ってたんだこの人。というか、本当に後は私のサイン一つでいい状態になってるんですが。…まさか拒否してても否応なしに連れてかれたんじゃないか。

「ある財団を通じて直ぐ通るように頼んであるぞ」

ああ、SPW財団ですね分かります。というか根回しが万全過ぎてやっぱり不安になってきました。本当にこの道を選んでよかったんでしょうか私。
多分荷をまとめるのも彼らなんだろうな…。もういっそ乾いた笑いしか出てこない。うん、まあ私も女だ。決めた事には腹を括ろう。
とりあえず洗い物したら挨拶回りだ…気合い入れろ私。

まさかの猶予が今日一日だけ、なんて驚きの展開にそっと額を抑えてみた。

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