神隠しの少女 | ナノ






夜も更けてきた頃。私は一人頭を抱えていた。

貞夫さんが公演に出てから6日が経った。つまり、明日には貞夫さんが来てしまうのだ。しかし、私には未だに今後の指針が見えていない。

幾つか選択肢を考えてもみた。そのうち一番有効そうなのはDIOにスタンドを発現させない事…つまり"矢"をエンヤ婆に渡さない事だった。そうすればホリィさんにも承太郎にも影響が出ない。
しかし、この選択は幾つかデメリットがある。まず、元からスタンドを持っていた花京院やポルナレフは原作のまま肉の芽を埋め込まれる可能性が高い。しかもスタープラチナが居ない以上抜くことが出来ないというおまけつきだ。

それ以外にもエンヤ婆に渡さない=矢を確保するということな訳で。記憶違いでなければ、矢を見つけるのはディアボロだったはず。つまり、空条家に行かずに彼に着いて行かなければならない。いや、ディアボロの事は好きだし、ギャングになるのも良くはないが…まあ許容範囲内だ。しかし、そうなれば私は死亡、もしくは行方不明と言う事になる。
もしそうなったとしたら、隣の部屋で寝ているジョセフさんは悲しむだろう。引っ張ってでも連れて行けば…とか死ぬまで悔やまれそうだ。それは心苦しい。


それに、そこまで原作を変えてしまっていいのかという事も気になる。いや、DIOを生かそうとしてる時点で何言ってんのって話ですけども。
エンヤ婆に矢を渡さなければ、3部もそれ以降の話も起こらない可能性が有るわけで。
…5部は有り得るのか。ディアボロが矢を持ってる訳だし。でも、その場合ポルナレフもいないからジョルノ達は全滅、とか?うっわ後味悪い。

いやいや、今はそこまで考える余裕はない。とにかく、スタンドが居ない状況は何が起こるか分からなすぎる。いや、人生って普通そういうもんなんだけども。
…とにかくこの案は有効とは言え、あまりにも不確定要素が多すぎて選ぶ事は出来ない。

と、なると。

「…出たとこ勝負?」

結局こういうことになってしまうのだ。
そうなった場合一番のネックはやはりホリィさんだ。花京院やヴァニラ達はスタンドをフル活用出来たら何とか出来る…気もする。まあ、もっと頭捻らなきゃ無理だろうけど一旦保留。
だが、ホリィさんのスタンドが暴走する事は不可避だろう。流石に寄生してる状態のスタンドだけを隠せる自信はない。というかスタンドだけ隠せるかも分からないし、土壇場でどうにかなるとも思えない。

「やっぱりホリィさんがスタンドを制御出来るのが一番…だよね」

では、そのために必要なものは何か。それが分からず堂々巡りが続くのだった。

そうこうしている間に、窓から朝日が差し込み、鳥の鳴き声が朝を告げる。
…結局答えは見つからなかった。

考えて考えて。疲弊した私の頭に過ったのは、DIOの言葉だった。
私は、私の望むものを手に入れる為ならどんな汚い手でも使う、か。随分過大評価されたものだ。
私から見れば、自分は弱くて狡い人間だ。DIOの言葉がなかったら、今でもDIOの為と言いながら、ホリィさん達から目を逸らし、彼らの死を仕方ないの一言で片付けようとしていただろう。
だが、自分の願望を真正面から見つめた上で、再度目を背けられるほど私は謙虚じゃあない。それに、彼からあんな風に言われたら、もう逃げられない。そんな事をしたらああ言ってくれたDIOにも失礼だ。あれは、DIOなりの励ましだったのだろうから。

…結局私がどうするか、どうしたいかは決まっていて。ただ、それに従った場合に失ってしまうかもしれないモノの大きさに怯えているだけなんだろう。まだ、失うと決まったわけでもないのに。
そう、原作通りに進めば私が失うものはあまりにも辛いもので。でも、私にはそれを変えられる可能性が、確かにあるのだ。
なら、進むべき道はやっぱり一つしかない訳で。


そう結論付けた瞬間、心が軽くなる。全く私は何をうじうじと悩んでいたのか。
やれることはやる。私がすべきことはただ全力を尽くすのみ。こんな単純な事に気づくまで1週間も費やしていたのだから、おつむの程度が知れてしまう。これじゃあDIOに馬鹿呼ばわりされても仕方あるまい。

まだジョセフさんが寝ているので控えめにしつつ、気が済むまで自分の馬鹿さを笑ってみる。うん、寝不足が祟ってテンションがおかしい。でもまあ、そのおかげで踏ん切りがついたということにしておこう。

さて、空条家に行くと決めたからにはやらなくてはいけない事が沢山ある。荷作りに近所への挨拶回りもするべきだろう。DIOにも言いに行かなくては。それにディアボロと会えるのも後少しだし。
…そう言えば彼がこの島を出た後、また会えるのだろうか。え、これで今生の別れとか嫌過ぎる。

少々半泣きになって暫しうろたえた後、スタンドで無理矢理にでも会いに行けばいいじゃん。と言うことに気付いた私の脳味噌はやっぱりちょっとネジが緩んでるらしい。
寝不足怖い。

[ 1/4 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]