神隠しの少女 | ナノ






初めてあの子を見た時、酷く怖がっているように見えた。見知らぬ男たちに対する恐怖と言うよりは、あってはならない出来事に直面したかのように混乱し、怯えているようだった。


茉莉香といった少女はあの馬鹿男よりもわしのことを気に掛けているようだった。人に比べれば背も高く威圧的に感じられたのかもしれない。生来の性格からか普段こういった態度を取られる事はなかったが、身内を全員亡くした後でナーバスになっているせいだろうか、と考えていた。


茉莉香はとても大人びた子どもである。ホリィや承太郎がこの年頃だった時はもっと、無邪気で自分の思うがままに動き感じたことを素直に表現していた。しかし、茉莉香はわしから一歩距離を取って冷静に観察していた。
口元が笑っていても目が冷めている。姿と釣り合わない丁寧な口調はこれ以上近づくなと暗に示していた。

しかし、そんなことでめげる様なわしではない。少しづつでも距離を縮めてやろうと声をかけるがさらりと流される。
そんな茉莉香が反応したのが幼い頃の承太郎やホリィの写真だった。大きな目を輝かせ、可愛いと笑う。娘と孫を褒められたのも手伝ってとても嬉しく感じた。
しかし、その目にどこか寂しげなものを見つけて失敗したかと少し悔んだ。考えてみれば茉莉香は幼くして両親を喪っている。こうした親子での写真と言うのも少ないのだろう。少々酷なものを見せてしまったのではないか。考えの足りなかった自分を恥じた。


そんな中、夕飯の材料を買いに行くと言った茉莉香に無理を言ってついていった。どれが安い、どれが美味しそうだといいながら買い物をする姿はやはり年には似合わない落ち着きがある。
そんな発見をする度心が痛む。まだまだ親に甘えたい盛りのはずなのにそれを許されてこなかったのか。本当はもっと自由に振舞ってもいいのだ、そう言いたいのをなんとか我慢する。
それはきっと、ここまで生きてきて茉莉香が培ってきたものを侮辱することになると思ったからだ。

せめて少しでも楽をさせてやろうと夕飯を食べさせてやればとても恐縮された。こちらの肩身が狭くなるほど御礼と謝罪を重ねられる。

少々酷な事かも知れないが祖父母の事を尋ねれば楽しそうに話すことから決して辛い生活を送ってきたわけではないのだろう。何故、そんなにも肩肘を張って生きるのかと、問いただしたくなるのを何とか堪えた。

初めは、わしとの血の繋がりはないが承太郎にとっては唯一の従兄妹で、これからは妹になるかもしれない存在と言う思いが強かった。しかし、ほんの1日接しただけだが、この少女に安息の場所を与えてやりたいと心から思う。
心の底から笑い、自由に振舞える場所を作ってやりたい。

この1週間で、茉莉香が空条家の一員になる決心をさせてみせるとそっと意気込み眠りに着いた。

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