神隠しの少女 | ナノ






「…行きたいよ」

掠れた声が絞り出されて。

「行きたい。でも、DIOとあの人たちを天秤に掛けたら、私は行けない」

ぼろぼろと絞り出される本音が、零れては消えていく。

「行って、彼らを君と同じくらい大切に思っちゃったらどうしたらいいの。もし、どちらかを選ばなきゃいけなくなっても選べなかったら」

どちらか片方を捨てる事なんて出来ない。悔やんでも悔やみきれない。我儘だけど、そんな辛い状況に陥るのなんて考えたくもない。だったら、初めから要らない。君だけで、いい。

「大馬鹿者」
「それ…人が真剣に考えてるのに、酷くない…?」
「ふん。馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「…」
「大体私の知っているお前なら、どちらかを選ぶなんてしない」
「は?」
「お前は馬鹿で、我儘だ」
「散々な言いわれ様だね…」
「お前は、どんな汚い手を使ってでも自分の望むようになるように悪あがきをする人間だ」
「すっごい人聞き悪い評価をどうも…」
「もしもジョースター共と私かを選ぶことがあったとしたら、胸糞悪い事にお前はどちらも取るだろうよ」
「は?」
「ふん、本当に気分を害する奴だお前は」

何かよくわからんが、最終的に文句だけ言われた気がする。私の上から退いてワインを飲み干すDIOを目で追いながら言われた事を整理する。
…えーっと、私は馬鹿で欲深いからどちらも取る為に悪あがきする人間だって事ですよね、言われたことを統合すると。…本当に碌な事言われてないな、おい。
まあ、でもつまり。

「ジョースターさん達を選びつつ私だってちゃんと選びなさいよね!と、こういうことですか」

DIOの広い背中に体当たりをかますと殴られた。…死んだ、脳細胞が死んだ。

「貴様の脳味噌が足りん事は知っているがここまでだったとはな」
「照れてるの?照れてるの?DIOちゃんかーわーいーいー」

…絶対零度で睨まれた。むしろ気化冷凍法された気分ですね!
適当に笑って誤魔化しつつ、口を開く。

「でもさ、そういうことでしょ?行きたきゃ行けばいいし、どちらか選ばなきゃいけなくなったらどちらも選べっていう」

うん、口に出すとかなり無謀感たっぷりだね。

「まあ、お前にしては合格点だな」
「普段バカバカ言うんだからもっと分かりやすく言ってくれればいいのに」
「なぜそこまでしてやらねばならん」
「優しさが足りないぜ…!」

ふん、っと鼻で笑うDIOにちょっぴり殺意を覚えつつ脳味噌を働かせてみる。
DIOやヴァニラ達も、ホリィさんも承太郎達も。誰一人として喪わない選択。そんなものが存在するんだろうか。
…分からない。でも、確かなのは私が動かなかったらDIOは死んじゃうし、承太郎は大切な仲間を亡くす訳で。そんな悲しい結末は真っ平ごめんだ。じゃあ、DIOが生かすとしたら?ホリィさんを筆頭に花京院やアヴドゥル、イギーは助からない。もしかしたら承太郎達も。それも避けたい。冷静に考えたら拒否したいことばっかりだ。

私が望むのは、誰も喪わないこと。…本当に我儘な願いだけれども。
その為に、何が出来るのか。私は何を選べばそれを手に入れられるのか。貞夫さんが帰ってくるまでの1週間。きっと、それがタイムリミットだ。

「あー…頭パンクしそう」
「破裂してしまえ」
「酷い!」
「…大体ジョースター共が私に挑んでくるかどうかすら分からんだろう。蟻が象に戦いを挑むと思うか?」
「うーん。とりあえずDIOは象よりライオンとかそっち系だよね」
「今そんな話はしていない」
「バッサリ切られた…。でも、確かにそんな状況にならないのが一番だよね」
「いくら無謀な奴らとは言えこのDIOに向かってくるとは思わんがな」
「…そうだね」

そうならば、どれだけ幸せだろうかと宙を仰いだ。

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