神隠しの少女 | ナノ






きっと教会に入る前のあの謎とも言える感情は"虫の知らせ"とだったんだろう。
会ってみたかった、でも、それと同じくらい会いたくなかった。出来る事なら、会わずにいた方がきっと幸せだった。ジョースター一族は、大切な彼の、敵なのだから。



息をするのも忘れて見つめる私にジョセフさんが不思議そうな顔をする。しかし、今は上手く取り繕う事も出来ずに顔を伏せた。
まさか、まさか、私の伯父というのは、ホリィさんの夫で承太郎の父であるあの人なのだろうか。だとしたら、私と承太郎は、従兄妹、なのか…?
なにも言わない私に神父様が挨拶を促した。声が震えるのを必死に留めながら口を開く。

「こん、にちは」

あまりにも素っ気ない一言だが、これが今の私の精一杯だ。二人は私を安心させるように微笑んでくれる。しかし、逆にその優しさが怖かった。

「こんにちは、私は空条貞夫と言います」

しゃがみ込んで私に目線を合わせるとにこりと微笑む。ああ、流石承太郎のお父さん、イケメンだわ、なんて場違いな事を考えるほど見事なスマイルだ。

「わしはジョセフ・ジョースターじゃ。よろしくの茉莉香ちゃん」

ジョセフさんの伸ばした手に身体が硬くなる。それに気付いて宥めるように優しく頭をなでられた。ああ、どんどん辛い気分になってくるよ…。
きっとDIOに会ってなかったら私のテンションはウナギ登りだ。いや、今だって全く嬉しくないのかと言われれば嬉しいと答えたい。だって、大好きなキャラが目の前に現れて微笑んでくれてるのに嬉しくない訳がないじゃん!?
でも、この人は数年後には私の大切な友人を殺しに行く旅に出るわけで。そうなったら私は凄く困るし、きっとホリィさんよりもDIOの為に動こうとするんだと、漠然と決めていた。

承太郎もジョセフさんも花京院も。ジョースター一行はもちろん大好きだし、ホリィさんだって素敵ないいお母さんだと思う。でも、DIOと比べてしまったら、私はDIOを"選択する"のだ。会ったことのない人の命よりも、DIOの命の方が私には大切だから。
だから、ジョースター家やその周りと関わろうなんて気持ちはもうなかったのに。それでなくとも無謀だとしても、DIOを勝たせてもせめてジョースター一行を殺さないでくれるように頼まなきゃな、とか考えてたのに。
ここで深く関わることになったら。ホリィさんや承太郎達をDIOと同じように大切に思ってしまったら。私は動けなくなってしまうんじゃあないか。
DIOの為に、この人たちが死ぬかもしれないという現実が、耐えられなくなってしまうんじゃ、ないのか。それは、酷く、恐ろしい。

「それで、マリカはどうしたいですか?」
「…え?」

急に声を掛けられて現実に引き戻された。慌てて神父様を見れば、ため息をつかれてしまった。

「マリカ、疲れているのも、驚いているのも分かりますがせっかく貴方を家族の一員として迎え入れたいと来て下さったんですよ?」

…ああ、やっぱり、そういう事なのか。地面に大きな穴があいて、その中を延々と落ちていくような、そんな気がした。

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