神隠しの少女 | ナノ






朝食を終えて今日は掃除でもするかな、と一日の予定を立てていると玄関のベルが鳴った。はいはい、なんて軽く返事をしながら扉を開けばディアボロが立っていた。

「おはよ、どうしたの?」
「…大丈夫か?」

私を見るディアボロの目は不安そうで。思わず笑ってしまう。

「何笑ってるんだ」
「いや、ありがたいなあって」

にこりと笑いかければ視線を逸らされる。…案外傷つくよ?その反応。
いや、でも本当にありがたいと思ってるんだよね。私がこうも通常運転で居られるのは、ディアボロのおかげでもあるんだから。おじいちゃんの事で駆け回る私のフォローを嫌な顔一つせずにこなしてくれた。
…そう考えると私は周りに恵まれてるな。ディアボロや神父様は私を気に掛けてくれていたし、DIOは側には居られない分、と普段なら一笑に付す泣き事を文句言わずに受け入れてくれてたし。
うん、本当にいい人(一部吸血鬼)に恵まれたなぁ。

あ、そう言えばDIO達に葬儀が終わったって言いに行ってなかったな…。後で何かお菓子でも持って挨拶に行かなきゃな、なんて考えつつディアボロに顔を向ける。

「で、心配してきてくれたの?」
「それもあるが…。教会に連れて来いと神父様に言われてな」
「神父様に?」
「ああ。…お前に客が来ている」
「客…?」

一体誰だろう。心当たりはとんとないのだが。首をひねりながら歩き出したディアボロに続く。
…この時、私はこれから会う人が私にとってどれだけ衝撃的な人物かなんて、知る由もなかった。

教会に着くと神父さまが外で待っていた。挨拶をすれば、返すのもそこそこに近づいてくる。


「マリカ、よく眠れましたか」
「はい。…私にお客様が居ると聞いたんですけど」
「ええ。…驚かずに聞いてくださいね。あなたの、お母様のお兄さん。つまり伯父様とそのお義父様が居ます」

その言葉に思わず息が詰まるような感覚に襲われる。…親戚、なんて居たのか。
ぐらりと世界が歪んだ気がした。何故だか酷く不安に駆られ、その反面では期待、とも言うべき高揚感が生まれる。…いや、私は一体どうしてこんなにも混乱しているんだろうか。親戚付き合いがなかったからと言って、絶対に居ないなんて断定はできなかった。頭の片隅にその可能性は置いてあった。まさか、会いに来るとは思わなかったが、ここまで衝撃を受けることだろうか。そう、私はもう少し冷静であってもいいはずなのに、ちっとも冷静になれないのだ。心臓がバクバクと音を立てている。呼吸が早まるのが自分でも分かる。ああ、一体全体私はどうなってしまったというのか。

そんな混乱の渦を止めてくれたのはディアボロだった。

「…伯父の父、という事はマリカの祖父、ということでは?伯父とその父と言うのはおかしな言い方ですが」
「ああ、その…。お義父様というのは伯父様のお嫁さんのお父さん、ということらしいです」

…つまり舅か。語感では義が付くかどうかなんて分かんないもんな、なんて少しばかり冷静な部分が反応する。…いや、これ冷静って言っていいのか。変なとこだけ反応してないか?むしろこれも現実逃避なんじゃ…。と唸りたい気分になっていると背中に手が乗せられる。
どうやら神父様の手の様だ。

「…会えますか?」
「…はい」

本当はこのまま逃げ出したいような気もするが、そういうわけにもいかない。母の兄と言う事は多分日本からわざわざ来てくれているはずだ。顔も見せないというのは失礼すぎる。

意を決して教会の中に踏み込むと、二人の男性がこちらを振り向く。逆光で見え辛いが、片方の人は随分と大きい。…2m近くあるんじゃないだろうか。もう片方の人も、決して小さいというわけではないが、比べると頼りなく見えてしまう。
…というか、大きい人の方は日本人ではないのだろうか。どうも日本人離れしているように思えるんだけど。

そんなことを考えながら、顔が見える距離にまで近づいたその瞬間、私の眼は限界まで見開かれた。そこに、居たのは。


ジョセフ・ジョースター、その人だった。

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