神隠しの少女 | ナノ






耳元で風を切る音がする。一歩でも早く前に進まなくては。
すぐ後ろで轟音と共に壁に綺麗な穴が開いた。

…嗚呼!鬼はかなりお怒りのご様子だ!

階段の下にマットを出してその上に飛び降りる。上を振り返ればクリームの口の中から顔を出したヴァニラと目が合った。…悪鬼や、悪鬼がいらっしゃる!
血の気が引くのを感じながら目的の場所へと足を運ぶ。
なんとかゴールまで辿りつけそうだ。


勢いよく扉を開ければ、中に居た人達の視線が集まった。

「あれ、んな息切らしてどうしたの」
「全く騒々しいな」
「何かあったんですか」

いつ来たのかは知らないが、のんびりお茶を啜っているラバーソウルとダンさんには目もくれず、夕食の下ごしらえをしているテレンスさんに抱きつく。

「こら、包丁を持っているんですから危ないでしょう」

私を離そうと手を動かした瞬間、扉に大きな穴があいて鬼が入ってきた。

「…ヴァニラ、館を破壊するのはやめてください」
「そいつをこっちに渡せ」
「話が噛み合いませんね」

扉が破壊されたのが気に障ったのかバチバチと火花を散らすテレンスさんから離れて、驚いたように観戦している二人の所まで後ずさる。

「…茉莉香ちゃんなんかしたの?」
「ヴァニラの後ろに何か黒いものが見えるんだが」
「怒りのオーラってやつかな…」

今にもクリームを繰り出しそうなヴァニラから目を逸らして、乾いた笑いを上げるしかない。というか、何故私だけがこんなに怒られるのか…。

「…茉莉香。この人と話していても埒が明きません。何があったか説明しなさい」

テレンスさんの言葉に顔を出すと、ヴァニラの殺気を込めた視線とかち合って思わずまたラバーソールの後ろに隠れる。

「ちょ、俺を盾にしないでよ!」
「無理無理無理!視線で殺されちゃう!」
「まあ、今にもクリームに吸い込まれそうだしな」

一人関係ないとばかりにお茶を啜るダンさんを殴りたくなるのを抑えて、もう一度顔を出す。…視線が痛いよ。

「えーっと、ことの発端はですね…」

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