それからの会話で分かったこと。
彼女がイタリアに住んでいて、まだ8歳ということ。
歳の割には賢い言動で、可愛らしい外見に反してDIO様に対しては妙に毒舌だということ。
スタンドが使えるようになったのはつい最近ということ。
そして、彼女と居る時のDIO様は普段と違って柔らかな雰囲気であること。
うん。柔らかっていう表現が合ってると思う。唇が描く弧はいつもの冷笑と言えるようなものには見えない。細められた目は冷酷さを感じさせない。
まあ、勿論それは彼女を見ている時だけで、俺達には普段と変わらない(もしかしたらちょっぴり優しいかもしれないけど)緊張感を与える。
「私は部屋に戻るが、茉莉香はどうする?」
「うーん…。皆さんが許してくれるならちょっと話してたいかな」
「ふむ。…お前達頼めるか」
「ええ、お任せ下さい」
おじさんが頷いたのを確認してDIO様は食堂から出ていった。ふう、と一息ついてやっぱ緊張してんだなと思った。
そんな俺らを見る彼女の目はやっぱりきらきらとしていて。この館というより、DIO様の隣に居るのが似合うとは思えないものだった。
「なあ」
「はい?」
今まで黙っていた先輩が急に話し出すもんだから俺の方がびっくりしちまった。
「…お前はDIO様が何をしているのか知っているのか?」
何を言い出すんだ、先輩頭イかれたのか?それが率直な感想だ。
彼女がこの館で夜毎行われているうすら寒い食事や、後ろ暗い企みを知っているか否かなんて関係ないだろう。もしも、何も知らないでDIO様に懐いているのに、この質問で全てを知って離れて行ってしまったらどうする?DIO様は原因となった俺達を許してくれるのか?つうか、この質問も全部把握してんじゃねーのあの人?
脳味噌が勢い付けて回り出す。出てくる答えが悲観的なもんばかりなのは悲しいけどな。
「何を、というと?」
「全てだ」
こちらの心配なんて知ったこっちゃないとばかりに先輩は言葉を重ねた。旦那とおじさんもポカンとしているし、執事さんは我関せずと後片づけをしている。…あれ?これ俺が止めなきゃいけないの?
「ちょっと、せんぱ」
「全て、かどうかは分かりませんがそれなりに知っている…と言ったところでしょうか」
意を決して発した言葉は彼女によって遮られてしまった。
「DIOが食事として夜な夜な女性の血を啜っていることも知っています。皆さんの力を使って邪魔者を排除していることも」
それがなにか?と微笑んだ彼女の瞳は先ほどと同じように輝いているのに、底知れぬ暗さをも湛えていた。
「知っていて側に居る、と」
「ええ」
「…金目的か?」
「別段普通に暮らすには困ってませんね」
「なら、なんでここに居るんだ。金でもない、DIO様に心酔しているわけでもない。何も知らない馬鹿でもない。…何故居るんだ」
「…DIOの言葉を借りるとしたら、友人だから、でしょうか」
「友人?」
「ええ。ただ、それだけです。たとえどんな悪人であろうと、私にとってDIOは大切な友人ですから」
なんらかの理由で敵対することがあったとしても、私は彼を嫌いになることはないでしょうね、と言い切ると彼女は残って居た紅茶を飲み干した。
「お前、馬鹿だな」
「…出会って初日に馬鹿呼ばわりされるとは」
「でもまあ、面白い」
「褒め言葉として受け取っておきます」
なんだかよく分からない内に先輩と彼女の間にあった緊迫した空気は霧散して、お互い軽口を叩き合っていた。…どーゆーこと?
「肝の据わったお嬢ちゃんだな」
「一度賭けに興じてみたいものだね」
「…茉莉香の魂を奪った日には私とDIO様からの制裁が待っていますよ兄さん」
「…魂は抜きで賭けるとしよう」
残りの三人も朗らかになっていて俺は一人取り残されちまった。
「あ」
「どうしました」
「そういやさー、ヴァニラさんは?」
今日一度も見てない気がすんだけど。
「ああヴァニラなら…」
「罰ゲーム中です」
「罰ゲーム?」
顔を向けると彼女は楽しそうに笑っていて。
「館の中にひとつ落とし穴を作っておいて、そこにDIOが嵌ったら私の勝ち。守り切れたらヴァニラの勝ちって賭けをしたんです。罰ゲームは裏庭の草むしりで」
「…ヴァニラさんが罰ゲームってことは、落ちたの?DIO様が?」
「ええ。皆さんにもあの間抜け面見せてあげたかったですよ!」
耐えきれない、とばかりに声を上げて笑い出した彼女―茉莉香とは、仲良くやっていけそうだな、と俺も笑えてきた。
神隠しと部下の初対面今度は俺も混ぜてよ
じゃあ何か悪戯考えないとですねー
年長者たちが呆れた顔をしてたけど知ったこっちゃない。
(楽しいことが一番大事でしょ!)
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[mokuji]
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