誰も声を上げずに座りこんだまま少女と見つめ合っていると、後ろから足音が聞こえた。
「一体何の騒ぎですか」
執事さんが眉間にしわを寄せながら入ってくる。…あ、先輩が踏まれた。先輩の悲鳴を無視して、執事さんはDIO様と少女に目を向ける。
「おや、茉莉香起きたんですか」
「あ、はい」
執事さんに頷いた後やはりこちらに視線を戻す。大きくてまん丸い目は明かりを反射してキラキラと光っている。この館に居るのが似合わない純粋な子供の目だな、なんて思ってみたり。
「ああ、この人達を見るのは初めてでしたか」
「はい。…というか、DIOとテレンスさんとヴァニラとヌケサクさん以外の人をここで見たの初めてですね」
指折りながらそう言う少女に誰もが目を見開く。え、この子DIO様呼び捨てにしたよね?っていうか執事さんとヌケサクにだけ敬称ついてンのおかしくね!?
「えっと、お名前聞いてもいいですか?」
小首を傾げながら尋ねる姿は可愛らしいけれど、それがますますこの館と不釣り合いで。思わず口ごもっていると旦那が一番に口を開く。
「ホル・ホースだ。こんばんは、可愛らしいお嬢さん?」
女であれば誰にでも敬意を払う、という信条はこの異常事態でも変わらないらしい。見上げたフェミニスト根性だ。少女は丸い目をさらに丸くした後、可愛らしく笑って"茉莉香"です、と名乗り返した。
「私はダニエル・J・ダービー。そこに居るテレンスの兄です」
おじさんのその言葉に執事さんが小さく舌打ちしたのを俺は確かに聞いた。絶対舌打ちした。
「テレンスさんの、お兄さん?」
「ええ。一応兄です」
「…一応、なんですね」
「Exatley」
大仰に頷く執事さんにおじさんが困ったもんだとばかりに肩を竦めると茉莉香と名乗った少女は困ったように笑い返した。
「私はスティーリー・ダン。鋼入りのダンだ」
「こんばんは、ダンさん」
素っ気なく伝えた言葉に朗らかに返されて先輩が微妙な顔をする。
…残りは俺だけか。
「あー、ラバーソールだ。よろしくね茉莉香ちゃん」
「よろしくお願いします」
丁寧に頭まで下げるもんだからどうしたらいいか分からずに頭を掻くことしかできなかった。
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