神隠しの少女 | ナノ






「んでやっぱりホリィママは渋ったし、ジョセフおじいちゃんなんか凄い勢いで怒鳴り込んで来たけど…まあ承太郎たちが味方してくれて…途中で重大発表もあったし」
「重大発表?」
「うん。承太郎の結婚が本決まりになったのと…赤ちゃんが出来たって」
「…それは、まあ」
「めでたいよねえ。ま、そんなお祝いムードもあって済し崩しな感じで許可取ってきちゃった」
「取ってきちゃったって…お前なあ…」

頭を抱えるディアボロにヘラりと笑いかける。そんな私を見てディアボロはチラリとこちらを見た。

「…確かにお前にはSPW財団のコネもある。アメリカを支配したDIOとやらとの繋がりもある。…だが、それでも安全という訳じゃあない。お前自身や家族が巻き込まれることもあるかもしれないぞ」
「皆強いから。自分の身はもう自分で守れるよ。ジョセフおじいちゃん達もそういうこと考えてくれてるし」
「…随分と信用してるな」
「信用じゃなくて信頼かなあ」
「…恨まれるかもしれないぞ」
「もしそうだとしても。私はそれでも彼らを愛しているし、守るよ。…生きていてくれればいいんだ。私を嫌っても恨んでもいい。生きていてくれれば幸せになるチャンスはあるから。で、今そのチャンスが一番少なそうな君を全力で守りたい」
「…酷い言われようだな」
「でも事実じゃない」

ため息を吐いて、ジッとこちらを見てくる目を同じく見つめ返す。

「後悔しないのか」
「しないよ」
「お前は…本当に馬鹿だな」
「そう言わないでよ。…大切な兄の為に少しくらい力にならせて欲しいんだ」

眉間の皺を伸ばすように揉む彼に手を差し出した。少し躊躇いながら握り返される。
かさついた手はやはり私のものより随分と大きい。幼い頃と同じ大きな掌。泣き虫で弱虫で、愚かだった私の手を引いて、時には叱り守ってくれたこの手を、今度は私が守る番だ。

「そういう訳で来月からよろしくね」
「また急だな…」
「編入は一応九月って考えてるから半年は君の側でみっちり組織に付いて学ばないとなあ」
「ああ。…別にパッショーネに入らなくてもいいんだぞ。俺の側に居てただ書類の整理でも手伝っていればいいんだしな」
「いい加減しつこいよ。私は決めたんだから」
「…意地っ張りめ」
「んふふ、そんなの今更じゃない」
「全く…それにしてもそうするとお前をどう扱うかが問題だな…」
「んー?そりゃ…」



扉を一枚挟んだ向こうでざわざわとした人が蠢く気配がする。静かに強くなっていく鼓動を抑えるように深く息を吸った。

『皆の物…今日はよく集まってくれた』

目の前の古びたラジオから変声期を通した奇妙な声が流れる。あちらでも同じなのだろう、ぴたりと漏れ聞こえる声が止まった。

『お前たちも知っているかと思うが先日我がパッショーネはアメリカを掌握したザ・ワールド商会との同盟を組むことに成功した』

ディアボロの言葉にワッと歓声が上がった。しかしそれも…一瞬だ。

『それに伴い、この同盟を組むにあたり仲介者であり立役者である人物を我がパッショーネの"筆頭幹部"として招く運びとなった』

ざわざわとした空気が先程よりも強まる。当たり前だろう、いくら大きな利益をもたらす同盟を組んだとはいえ、見ず知らずの人間が自分たちを飛び越え高い地位を得ようとするのだから。自分たちの取り分が減ることを恐れ、嫌うのは間違いない。

『では、今日の主役に出てきて頂こう』

その言葉を合図に扉を開く。一斉に振り向いた男達の顔が一様に驚きに染まった。

「初めまして。今日からこちらでお世話になる茉莉香・空条です」

にこりと笑った私に様々な視線が突き刺さった。驚き、好奇、羨望…苛立ちと、嫌悪。穴が開きそうなほど見つめてくる彼らに向かって私はもう一度、満面の笑みを向けた。

「これからどうぞ、よろしくお願いします」

疎らな拍手の中、私は震える手を隠す様に強く握りしめた。



『…いいのか、そんなことをすればお前は反発を持った奴らの的になる。俺はどこに居るとも知れないからな』
『だから良いんじゃないか。…これからこの組織はもっともっと大きくなる。それに当たって君に対して反抗心を持つものが私を蹴落とそうと、消してしまおうと動く。…私はね、踏み絵になるんだよ』

君を守るためになら、喜んで私は踏まれてやろうじゃあないか。




怯えを隠して大きく吼えろ
狙わば狙え!

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