神隠しの少女 | ナノ






じんわりと湿気を含んだ生温い風の中三人並んで歩く。

「…やっぱり言わない方が良かったかな」
「いつかは言わなきゃならねえだろ」
「そうだよ。黙って出て行くつもりはなかったんだろう」
「それはそうだけど」
「直前になって言えばおふくろも納得する時間もなかったんだ。今行ったのは間違いじゃない」
「うん…」
「ホリィさんも分かってくれるさ…本心はどうあれ、ね」
「…典明君、その言い方は意地悪じゃない?」
「そりゃあね。僕だって出来れば止めたいんだ。…君が止まらないのを知ってるから言わないだけで」
「…強情ですいません」
「本当にね」
「いつも迷惑ばっかりかけるなお前は」
「うう…耳が痛い…」

丁度足元に合った石を蹴飛ばせばあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。道から外れて暗い方へと小さな音を立てて転がっていく。

「今の君はあの石みたいなものだよ。暗い方へ迷い込んでる。…しかも自分から」
「うん」
「ホリィさんはああ言ったけど。途中で辞めようたって辞めれないんだろうああいう所って」
「うん」
「じゃあ君は…ずっと誰かを傷つけて、殺して。それでもその人を守り続けるんだ」
「うん」
「…本当にそれでいいの」
「うん」
「でも」
「止めろ花京院。こうなったらこいつは誰の言葉も聞かないだろう」
「承太郎…君はそれでいいのか」
「いいわけねえだろ。だがこいつが言い出したら聞かないのも、…大切な奴を守るためになりふり構わないのも、よく知ってるからな。なら仕方ねえだろ」

ポンと大きな手が頭に乗った。ちらりと見上げれば呆れたような眼がこちらに向けられている。

「どんな馬鹿でも俺の妹だ。…兄貴として応援して、守ってやるしかないだろう」
「…見上げた兄弟愛だな」
「なんとでも言え」
「全く。茉莉香」
「え、あ、なに?」

承太郎の言葉に感動して思わず反応が少し遅れた。そんなことはお見通しなのか、これまた呆れた眼がこちらに向けられる。

「僕は卒業したらSPW財団に入る予定なんだ」
「あ、そうなんだ」
「うん。…こうなったら仕方ない。それなりに頑張って楽しい人生でも過ごそうかと思っていたけど…出来る限り上に昇るよ」
「え?」
「いつか君が辞めたいと言った時にあそこの幹部クラスなら匿う位簡単だろうからね。ま、実力はありますし?いつか承太郎を顎で使ってやろうかな」
「お前…」
「典明君…でも…」

そんなこと、いいのだろうか。これから先彼の人生は未知数だ。私の知り得る中で最も自由に、決められてない人生を歩む一人。出来る限り平穏で幸せに生きることだって出来るのに。

「…僕を生かしてくれたのは、承太郎と君だ。承太郎が肉の芽を抜いてくれて、君が命がけで僕等を守ってくれたおかげ。今五体満足でここに居られる恩を返させてくれたっていいだろう?」
「そんな、恩返しなんて!私は私がやりたかったから」
「うん。だから僕も僕のやりたいようにやるんだよ。君を助けたい。そう思うから頑張るんだ。それだけさ」
「典明君…」
「重い奴だな」
「承太郎…君言うに事欠いてそれか」
「人の妹隣で口説いてんじゃねえよ」
「くど…!口説いてなんかいない!」
「そうかそうか」
「承太郎!…エメラルドスプラッシュ!」
「オラオラオラオラ!」
「なんでそうなった!?」

本気ではないにしろ技を繰り出す二人に思わず全力で突っ込む。そんな私に二人がニヤリとした笑みを向けた。
ほう、そうか。これから困らせる代わりに今私を困らせようって言う魂胆かお前ら!

「そのつもりならノってやるう!いっけースピリッツ・アウェイ!酔っ払いに冷水引っ掻けてやらあ!」

頭上から降り注ぐ水に二人が短い悲鳴を上げる。ずぶ濡れになった二人を指差して笑っていると、ゆらりと顔を上げる。…目が、マジだ。

「いや、ほら…す、涼しくなったでしょ?いやあ、今日は暑いねえ…」
「ふふふ…そうだね。茉莉香も涼しくなりたいだろう?」
「俺達だけ涼しくなっちゃあ申し訳ないな…」
「いや、私はほら…暑さ寒さには強いんでね?ね?」
「「言い訳無用」」
「ぎゃー!」

うわああああ!一気に濡れるより服にじんわり水が染みてきて気持ち悪い!
圧し掛かってくる二人から逃げようと身をよじるが流石にこの二人には敵わない。じっとりとしてくる体に歯を食いしばっていると、耳元に息がかかった。

「無茶しすぎんなよ」
「何かあったらいつでも言うんだよ」
「…うん、ありがとう」

ぐしゃりと髪を掻き乱す二人の手に目を瞑る。ああ、泣き出しそうなのがばれなきゃいいんだけれど。

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